歩道橋シネマ 


 2020.11.3      恩田陸ならではの世界観 【歩道橋シネマ】

                     
歩道橋シネマ/恩田陸
評価:2.5
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■ヒトコト感想
恩田陸お得意の不思議な物語の短編集だ。何か不思議なことがおきている。それに気づきながらも、不思議な出来事の理由がわからない。妙な怖さのある短編や、戦慄のオチがある短編などもある。サラリと終わってしまうのが逆に強い余韻を残す場合もある。ただ、短いだけに頭の中からすぐに抜け落ちてしまうパターンもある。

SFからホラーからちょっとしたコメディまで、阿刀田高のようなブラックなショートショート風もある。多才な作者らしさが全開となっている短編集だ。複数のジャンルがごちゃ混ぜになっているだけに、作者のファンでなければ辛い部分があるかもしれない。恩田陸の既刊である「私と踊って」などを楽しめた人ならば間違いなくはまるだろう。

■ストーリー
とあるたてこもり事件の不可解な証言を集めるうちに、戦慄の真相に辿り着いて…(「ありふれた事件」)。幼なじみのバレエダンサーとの再会を通じて才能がもたらす美と神秘と酷薄さに触れる「春の祭典」。密かに都市伝説となった歩道橋を訪れた「私」が記憶と、現実と、世界の裂け目を目撃する表題作ほか、まさにセンス・オブ・ワンダーな、小説の粋を全て詰め込んだ珠玉の一冊。

■感想
多彩な短編の中でも印象深いのは「あまりりす」だ。読み終わった後に、ゾっとする感覚が残る。何か得体のしれないもの。そして、残虐な場面を思わず想像してしまう。謎の生物あまりりすというのが恐ろしくて仕方がない。

はっきりとどんなものかと明言してもらえればある程度慣れてくるのだが、小出しにされる描写とそれにより自分の頭の中であまりりすがより恐ろしいものにアップデートされていく。この感覚を作り上げるのは恩田陸の真骨頂だろう。「Q&A」「ユージニア」でも同じような感覚をおぼえた。

「麦の海に浮かぶ檻」は「麦の海に沈む果実」と関連があるため、思わず読み直してしまった。やはり恩田陸作品を多数読んでいる人の方が楽しめるのは間違いない。もし、自分が恩田陸マジックを知らずに本作を読み、しっかりとしたオチを期待して読み進めた場合はがっかりするかもしれない。

途中の雰囲気を楽しむのが恩田陸作品のだいご味であることは間違いない。「ありふれた事件」などは恐ろしすぎる。なんでもないたてこもり事件のはずが、証言を聞いていくうちに驚愕の真相が判明する。

SFやコメディチックな短編もある。「逍遙」はバーチャルの世界を現実にしたような物語だ。ホログラムがそのまま現実のものとなる。恩田陸にSFのイメージはないが、近未来にはもしかしたら同じような技術が発明され、物理的な障害がなくなるのかも?と思わずにはいられない。

恐怖作品はありえない展開ではあるが、もしかしたら?と思わせる微妙なラインであることも恐ろしいと思わせる要因なのだろう。あまりにもぶっ飛んだ設定だと、感情移入できないのは確かなので、ちょうどよいギリギリのラインなのだろう。

恩田陸ファンならば間違いなく楽しめる短編集だ。



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