Q&A 恩田陸


2010.9.26  人の想像力刺激する事故 【Q&A】

                     
■ヒトコト感想
インタビュー形式で始まる本作。大型ショッピングセンターMで発生した事件の真相を探るべくスタートした本作だが、物語はMの事件におさまらず、大きく広がっていく。てっきり藪の中的な、人によって真相が変わってくるタイプかと思ったが、まったく違った。質問に答える人はすべて真実を語っており、それが物語のベースとなりミステリアスな雰囲気を高めている。Mの内部で何が起こったのか。読者は登場人物たちと同じように真実を知りたいという気持ちがどんどんと高まってくる。事件か事故か、真実が見えかけたとき、新たな展開も登場してくる。ただ人が質問に答えるだけでこれほど深い物語になるのかと驚いた。はっきりと事実を提示しないまでも、読者に想像させる程度のヒントを示す。かなり好きなタイプのミステリーだ。

■ストーリー

都下郊外の大型商業施設において重大死傷事故が発生した。死者69名、負傷者116名、未だ原因を特定できず―多数の被害者、目撃者が招喚されるが、ことごとく食い違う証言。防犯ビデオに写っていたのは何か?異臭は?ぬいぐるみを引きずりながら歩く少女の存在は?そもそも、本当に事故なのか?

■感想
不可思議な死傷事故が発生し、その原因をさぐるのが最初の目的のはずだった。読者は質問者と同じ目線で、事件の真相を探ろうとする。目撃者の証言に嘘はなく、物語を構築する重要な手がかりとなる。おぼろげながら見えてきた事件の真実には、謎は残る。その謎を補完するような質問と答えがあったかと思うと、そこからまた別の出来事が発生する。不思議な事件の真相が少しづつ明らかになっていくのは快感が伴い、さらには次のミステリーへ進む大きな追い風となっている。

それにしても、この何が起こっているかわからないという雰囲気作りは非常にうまい。単純な事件ではなく、何がなんだかわからないことが一番恐ろしい。作中の人々の唖然とした表情が頭の中にはっきりと浮かび上がってきた。人々がパニックになるといえば、簡単に想像できる事件はたくさんある。それをうまく連想させながら、さも大きな事件が起きたように思わせておいて何もない。そればかりか、その事件をきっかけとして、謎の宗教団体や政府陰謀説などの風評が立つところなど鳥肌ものだ。

質問者と答える人物の身元がはっきりしないことも本作を面白くしている要因の一つだ。答えを読んでいくうちにその人物が明らかとなってくる。なぜそんな質問をしたのか、答えの意味は?中盤ではまったくその必要性がわからなかった質問と答えも、後になってしっかりと生きてくる。人の生々しい証言は、パニックに陥った人の恐怖と、それに便乗し利益を得ようとする人のあざとさや、他人を出し抜こうとする狡猾さばかりが目に付いた。恐ろしいほど人の深層心理をついている作品のように思えた。

一つの事件からスタートした、すばらしく奇妙なミステリーだ。



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