麦の海に沈む果実 恩田陸


2010.9.25  不思議な学園ミステリー 【麦の海に沈む果実】

                     
■ヒトコト感想
閉鎖的な学園で繰り広げられるミステリー。三月の国と呼ばれた学園に二月最後の日に来た理瀬。突然失踪した生徒や、あるときは男、あるときは女になる美しい校長。すべてが特別で普通ではない学園生活の中で、生徒の失踪事件が巻き起こる。作中の本として「三月は深き紅の淵を」が登場し、繋がりがあるように匂わせている。奇妙な学園生活も特別な環境ということで、その奇妙さにしだいに慣れてしまう。ミステリーとしての面白さより、この奇妙な学園生活の雰囲気を楽しむべきだろう。降霊の儀式や、幻覚症状を起こす薬物など、様々な伏線は張り巡らされている。ただ、直接ミステリーとしての面白さに繋がるものではない。特殊な学園生活ミステリーというのはありがちなのかもしれない。

■ストーリー

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?

■感想
図書館から消えたいわくつきの本というのが「三月は深き紅の淵を」らしい。そうなってくると大きく関係があるようだが、実際にはほとんど関係がない。閉鎖的な学園で不思議な出来事が起こる。ミステリー風味は強いのだが、大きなトリックがあるわけではない。特殊な学園にありがちな、自由気ままだがそのかわり責任が伴う生活。生徒個人の強烈な個性もさることながら、一番インパクトがあるのは間違いなく校長だ。あるときはイケメンの男となり、あるときは美女となる。親衛隊まで存在する校長が学園をより不思議なものへと変化させている。

学園で起きた失踪事件。その謎を解くために降霊の儀式や、不可思議な推理を繰り広げる。なんだか荒唐無稽すぎて現実感はない。もともとこの学園自体もありえない状態なのだが。そうなってくると、いったいどんなトリックが待ち構えているのかが気になってくる。二月の最後の日に転校してきた理瀬。理瀬に関わろうとする男。そして、必要以上に理瀬に注目する校長。なんだかありえないことだらけとなり、学園モノというくくりではおさまりきらないように感じた。

結末にはある程度の答えが示されている。いわくつきの様々な伏線は結局それほど回収されないまま、うやむやにされている。悲惨な学園ミステリーという印象もなければ、衝撃的なトリックという印象もない。不思議な学園に個性豊かな生徒たちが生活するという印象しかない。結局「三月は深き紅の淵を」との繋がりは、ただ名前がでてきただけのような気がしてならない。魅力的な設定かもしれないが、使い古された設定という印象は捨てきれない。

学園ミステリーが好きな人は読んでみるのもいいかもしれない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp