2010.10.6 人の心の奥底をのぞくミステリー 【ユージニア】
■ヒトコト感想
大量毒殺事件が発生し、その生き残りであった少女が後に事件の小説を書く。その小説がベースとなり、真犯人を探るべく物語は進んでいく。様々な人の言葉から事件の真相が見えていくパターンはQ&Aとまったく同じだ。Q&Aが奇妙な事故だったのに比べ、本作は明確な殺人事件として成立しており、さらには真犯人がいるという流れとなっている。Q&Aよりもミステリー色が強く、さらには人々の証言からジワジワと真実が見え、事件のトリックも明かされてくる。特別な仕掛けというよりも、人の心の奥底を覗くような感覚と、不明確な動機をはっきりさせようとする雰囲気。「ユージニア」という謎の言葉の意味も含め、ラストにはしっかりと真実が語られている。このパターンは知らず知らずのうちにのめりこんでしまう。
■ストーリー
「ねえ、あなたも最初に会った時に、犯人って分かるの?」こんな体験は初めてだが、俺は分かった。犯人はいま、俺の目の前にいる、この人物だ―。かつて街を悪夢で覆った、名家の大量毒殺事件。数十年を経て解き明かされてゆく、遺された者たちの思い。いったい誰がなぜ、無差別殺人を?見落とされた「真実」を証言する関係者たちは、果たして真実を語っているのか?
■感想
様々な関係者の言葉から事件の真相が明らかとなる。犯人が自殺した大量毒殺事件として終わるはずだった。それが事件のノンフィクション小説に隠されたメッセージや、犯人と親しくしていた子供の言葉などから、真犯人の姿がおぼろげながら明らかとなる。事件を捜査した刑事や犯人と疑われたお手伝いさんまで、あらゆる人の言葉によって、事件の隠された裏側が見えてくる。一つの事件を様々な視点から見ることで、別の真実が見えてくる。Q&Aと同様に、本作も先へ進めば進むほど深みが増し、ページをめくる手が止められなくなる。
家族の中でただ一人生き残った女。目が見えないために、生き残ることができたという偶然。物語中では、真犯人はある程度限定されている。しかし、その動機はラストを読むまでまったくわからない。探偵役が存在し、事件の関係者を集め、トリックを明かし、胸のすくようなすっきり感が味わえるオーソドックスな探偵モノも良いが、本作のタイプの方が好きだ。人々の証言から、すこしづつ真実が見えてくる。誰もがはっきりと口には出さないが、うっすらと漂ってくる真犯人の香り。どういった決着のつけ方をするのか。最後まで楽しみは持ち越しとなる。
宮部みゆきの模倣犯に似た雰囲気も持つ本作。犯人周辺のエピソードがあり、そこから犯人の人となりがしっかりと見えてくる。不自然な動機や、目的の見えない行動すらも、納得させる強烈な説得力がある。一つの本をめぐり、定年退職した元事件担当刑事や、本を出版した編集者まで。あらゆる人が言葉をつなぎ、事件の真相へと導いてくれる。古本屋の部分や、ラストの回想シーンなど、知らず知らずのうちに鳥肌が立ってしまった。勧善懲悪ではなくモヤモヤとした感覚は残るかもしれないが、すばらしいエンディングだと思う。
作者の作品で、この手のパターンの作品にハズレはない。
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