2013.4.1 ”ほぼ実話”が恐ろしい 【私と踊って】
評価:3
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■ヒトコト感想
短編集。特別なテーマはないだけに、どんな短編が登場してくるか、ドキドキしながら読み進めることができる。ミステリアスでしびれるような短編かと思えば、犬が手紙を書き人を助ける短編まで登場する。この雑多感が良い。対になる短編もあれば、ある程度の予備知識がないとつらい短編もある。
作者の趣味と自分の趣味が合えば、それなりに楽しめることだろう。何が起きているかわからないが、何かが起きている的な短編というのはやはり好きだ。作者のパターンと自分の好みがあえば、かなり興味をそそられてしまう。この手の短編集の場合、表題作がおすすめのようだが、自分の中では表題作よりも気になる作品が多数あった。
■ストーリー
この世の終わりに踊る時も、きっと私を見ていてね。ダンサーの幸福は、踊れること。ダンサーの不幸は、いつか踊れなくなること――稀代の舞踏家ピナ・バウシュをモチーフに、舞台を見る者と見られる者の抜き差しならない関係をロマンティックに描いた表題作をはじめ、ミステリからSF、ショートショート、ホラーまで、物語に愛された作家の脳内を映しだす全十九編の万華鏡。
■感想
冒頭の「心変わり」にはいきなりやられた。男は失踪した同僚の席に座り、あることに気づく。ちょうど目線に入る鏡の位置が微妙にズレているのだが…。失踪した同僚の席に座る。人の席に座ると、その人の生活がわかるのだが、うまくミステリーに仕立てあげている。
ちょっとしたヒントから次々に連想し、次第に大きな結末へと近づいていく。最終的には狙撃事件にまで…。この荒唐無稽さと、密命的な流れが良い。何かを伝えるために、人知れずヒントを残していた同僚。緊張感が読んでいて伝わってきた。
「忠告」は、思わずニヤリとしてしまう物語だ。飼い犬が自分に対して奇妙な手紙を書いた。犬が手紙を書けるはずがないのだが…。単純に面白い。短い文字数の中に面白さが凝縮されている。犬が飼い主のことを思い忠告する。
ここまでなら、誰かのいたずらだと思うだろう。それが、手紙を書けるようになった経緯まで…。思わず犬が手紙を書いているシーンを想像してしまった。犬が登場すれば次は猫だ。という感じで猫が登場する「協力」もまた面白い。
「死者の季節」はダントツに恐ろしい。というよりも、あとがきで書かれている作者の”ほぼ実話”というのが恐ろしさに拍車をかけている。作者の恐怖物語はいくつか読んだことがあるが、実話という言葉があるかないかで、こうも印象が変わるとは思わなかった。
もし、”実話”でなかったとしたら、特別印象に残ることはないだろう。誰もが驚くような超常現象や恐怖体験ではない。日常に起こりがちだが、よく考えれば、なんだか恐ろしいことなだけに、リアル感がある。
雑多な短編集だが、印象深い作品はいくつもある。
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