まゆみのマーチ  


 2011.10.28  インパクトある短編ばかり 【まゆみのマーチ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者が自選する短編集の女子編。「卒業」や「ビタミンF」や「ナイフ」などから選ばれた短編で、1度は読んでいるはずなのに、すべて新鮮な気分で読むことができた。収録されている本のカテゴリーが変わると、こうも印象が変わるのだろうかと驚いた。読んだ時期とそのときの環境によって感じ方は変わってくる。今読むと、ズシリと心に重く響く短編もある。それが親子関係の話になるとなおさらだ。恐らく当時は、独身で何も考えずに読んでいたことを、今、結婚し、親となり子を持つ立場となると、大きく感想も変わってくる。いじめに苦しむ娘を、本人の立場よりそれを見守る親の立場として読んでしまった。当時の感想を読み返してみると、今のような衝撃を受けていないのは確実だ。

■ストーリー

まゆみは、歌が大好きな女の子だった。小学校の授業中も歌を口ずさむ娘を、母は決して叱らなかった。だが、担任教師の指導がきっかけで、まゆみは学校に通えなくなってしまう。そのとき母が伝えたことは―表題作のほか、いじめに巻き込まれた少女の孤独な闘いを描く「ワニとハブとひょうたん池で」などを含む著者自身が選んだ重松清入門の一冊。

■感想
卒業」に収録されていた「まゆみのマーチ」。表題作なだけにかなり印象深いが、「卒業」を読んだ当時は、ほとんど印象に残っていないようだ。親子の別れにばかり気持ちがいき、子どもの立場で読んでいたのだろう。今ならば、まゆみの気持ちや、何に対しても歌を歌ってしまう面倒だが可愛い子どもをどうするかという、親の立場として考えてしまう。立場の違いによってかなり印象が変わってくる。登校拒否状態となった子どもに対して自分だったらどうするか、ということを終始考えながら読んでしまった。

「ワニとハブとひょうたん池で」はワニという特徴的な題材だったので、さわりは覚えていたが、こうもディープな内容だということを忘れていた。「ナイフ」に収録されていた本作。イジメに対しての深刻な思いは当時と変わらないが、感じ方はまた違っている。苦しさを感じるのは変わらないが、その苦しさが「親に、イジメられていると知られる恐怖」についての苦しさを理解できるからだ。それも親の立場となって考えてしまうだけに、その苦しさはひとしおだ。エスカレートするイジメの恐怖よりも、自分がどれだけ明るく楽しい学生生活を送っているかだけを表面上とりつくろう。こうもイジメを受けた生徒の心境をリアルに描けるのはさすがとしか言いようがない。

その他には「ビタミンF」や「日曜日の夕刊」に収録された短編があるが、自分の中でそれらすべての短編集がかなり高い評価になっていることに驚いた。作者が自選する短編が収録されているものが面白いのは当然なのかもしれないが、自分としてもこれほど高いランキング付けをしているとは思わなかった。本作向けに東日本大震災をテーマとした書下ろしの短編があるが、それはこの際どうでもいいのかもしれない。本作に収録されている短編を読んだことがある人も、本作を読んだら確実に違った印象をもつだろう。心に残る短編ばかりだ。

自選というだけあって、強烈な印象を残す作品ばかりだ。




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