日曜日の夕刊 重松清


2007.6.20 心温まる作品集 【日曜日の夕刊】

                     
■ヒトコト感想
本当に疾走と同じ作者なのかと疑ってしまうほど、心温まる作品集となっている。12の短編からなる本作。老若男女どの世代でも何かしら共感でき、そして感動する部分があるのは確実だ。おそらくメインのターゲットは小さな子どもを持つお父さん世代なのだろうが、僕の中でもぴったりとはまり込む何かを感じた。特に前半部分は、心が温かくなり、油断するとホロリとしてしまいそうなほどジーンとくる作品だった。日曜日の夕刊を読むように軽い気持ちで読む。しかし読み進めていくうちに軽い気持ちがいつのまにか自分の人生を考えさせられる何かを植えつけてくる。ガツンと来る衝撃ではないが、ジワジワとそしてしんみりと心に来る作品だ。

■ストーリー

日曜日、お父さんがいてお母さんがいて「僕」がいて、お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人がいて―。ある町の春夏秋冬、日常の些細な出来事を12の短編小説でラッピング。忘れかけていた感情が鮮やかに蘇る。夜空のもとで父と息子は顔を見合わせて微笑み、桜の花の下、若い男女はそっと腕を組み…。昨日と同じ今日なのに、何故だか少し違って見える。そんな気になる、小さな小さなおとぎ話。

■感想
いきなり登場する「チマ男とガサ子」。もしかするとなんてことない普通の作品なのかもしれない。自分と重ね合わせてみても、何一つチマ男に共感できる部分はない。しかし感動してしまった。天然とも言うべきガサ子の行動。実在すれば相当イライラさせられるのだろう。しかし、これが物語りで架空の人物だとわかると、とたんに親近感がわき二人の恋愛に対して応援したくなってくる。二人の気持ちが曖昧なまま、そして天然のまま、いつの間にか元の鞘に戻ってる。このガサ子の天然具合が癒される原因なのだろう。

メインのターゲットである中年男性が本作を読んでどんな感想を持つのだろうか。「さかあがりの神様」や「すし食いねぇ」、そして「後藤を待ちながら」はすべて子どもが絡んでいる。子を持たない自分でさえも、親子関係を想像すると思わず頬が緩んで、油断すると鼻の奥がツーンとしてしまいそうな作品だ。現実に働くお父さん世代は逆に本作を完全なフィクションとして何も感じないのかもしれない。しかし、現段階の僕としては十分に感情移入でき、感動することができた。

作者の作品はわりといじめや現代の病んだ部分をクローズアップするように、読み終わると暗い気持ちになる作品が多い。本作はすべてがすべて完全なハッピーエンドではないが、気持ちの上では十分にハッピーで心の中が晴れやかになる作品が多かったような気がする。夢や希望に溢れているのではなく、リアルな中にあるちょっとした日常の幸せ、そして不幸せの中にもその解決方法を導いているような気がした。

サラリと軽く読める本作の短編。会社で嫌なことがあって落ち込んだお父さん世代には是非とも本作を読んで元気になってほしいものだ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp