ナイフ 重松清


2007.9.3 読めば読むほど辛くなる 【ナイフ】

                     
■ヒトコト感想
いじめる側、いじめられる側、傍観者。誰でもこの三者の中に当てはまるものがあるはずだ。本作はいじめをテーマとした、非常に読んでいて苦しくなるような作品だ。この苦しさは、優れた作品ゆえのことだが、どの立場であっても、いじめに関わった時代の思いがフラッシュバックするようで、つらかった。いじめというのは何も子どもだけのことではなく、大人社会でもありえることだ。それらを暗示するような作品もある。真剣に読めば読むほど、辛く悲しくなる。これがまさしく作者の真骨頂だと思った。

■ストーリー

「悪いんだけど、死んでくれない?」ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。僕たちの世界は、かくも脆いものなのか!ミキはワニがいるはずの池を、ぼんやりと眺めた。ダイスケは辛さのあまり、教室で吐いた。子供を守れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた。失われた小さな幸福はきっと取り戻せる。その闘いは、決して甘くはないけれど。

■感想
いじめといっても様々なパターンがある。本作はすべてがすべて違ったパターンのいじめを描いている。オーソドックスなものから、子どもがいじめられている父親の立場だったり、いじめられつつも、それを受け入れる場合であったり。今、目の前でいじめが起きていて、何かできるかといえば、多分何もできない。そのくせ、本作のように物語として読むと、変に正義感をかざして、いじめはよくないと思ってみたり。目の前で起きる場合と、まったく無関係ないじめを文章で見るのとは随分と印象が違う。

本作を読んでもう一つ、驚いた部分としては、いじめがエスカレートしているということだ。昔のいじめは、親や先生にばれればそこで終わるという可愛いものだったのかもしれない。しかし、本作では(今の現実として)そこからさらにいじめがエスカレートしてしまう。極端に言えば、相手が死ぬか転校するまで続ける。そしてその結末がおとづれても、いじめの当事者たちは何一つ驚くことはない。この当事者たちの行き過ぎた心境は、読んでいてうすら寒いものを感じてしまった。

本作を読むことで、いじめにあっている子どもが元気付けられるとか、その親たちが勇気をもつことができるわけではない。非常にデリケートな問題なので、あっさりと答えがでるとも思えない。しかし、読んでいると、あるモデルケースとして共感でき、何かを感じることができれば、もし、今後自分やその子どもにいじめの魔の手がせまりくる時に、適切な対応ができそうな気がした。

読んでいて苦しくなるほどリアリティを感じた。読後感は決してよいものではないが、いじめの実態をまったく理解していない人たちには読んでもらったほうがいいのかもしれない。




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