卒業 重松清


2007.9.5 何に対しての卒業なのか 【卒業】

                     
■ヒトコト感想
卒業という表題と中身が必ずしもリンクしているとは思わない。親の死にまつわる四作。親との別れ、イコールなんらかの卒業という意味なのだろうか。親との別れは必然的にやってくる、その時期や周りの環境によって子どもにどのような変化がおとずれるのか。本作は様々なパターンの親との別れを描いている。その中でも特に印象深かったのは「追悼」だ。幼い時代に親と別れ、継母との関係。思わずこの敬一に感情移入してしまった。敬一のとる行動が、まさに自分だったらこうするだろうという行動とぴったり当てはまってしまった。

■ストーリー

「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、十四年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが―。悲しみを乗り越え、新たな旅立ちを迎えるために、それぞれの「卒業」を経験する家族を描いた四編。

■感想
親との別れは、人生の中で一大出来事だろう。そして、それは誰にも避けて通ることのできない出来事だ。今はほとんど意識することがないが、年齢的にいってもいつそうなるかわからない。本作の中にも死を間近にひかえた親に対して、どのような行動をとるのか、そして、それが親自身にどんな思いを抱かせるのか、すべてがすべて、納得でき感情移入できるわけではないが、あるパターンとして、とても印象深いものとなっている。

親の死を目の当たりにするのとは対照的に、物心がついたころには親がいないというパターンの作品もある。厳密に親との別れを描いているわけではないが、なんとなく、子どもが成長し、新たな親のイメージにたどり着くということが、今までの親のイメージからの脱却という意味では卒業なのかもしれない。

親というものは子どもにとっては、いて当たり前、そして、優しく思いやりがあって当たり前。絶対的なものというのが幼いころの思いだ。それが間違っているとおぼろげながら意識するのも子ども時代かもしれない。そんな親のイメージ。良い部分であったり、悪い部分であったり、すべてを含めて、それが自分の親なのだということに気づき、受け入れることができるのは、自分が親になったときなのだろうか。

卒業というタイトルからはなかなかイメージできないが、親の死と子どもの関係が、様々な切り口で描かれている。




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