今昔百鬼拾遺 月 


 2021.5.12      鬼、河童、天狗の物語 【今昔百鬼拾遺 月】

                     
今昔百鬼拾遺 月 [ 京極夏彦 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
すでに読んだことのある「鬼」「河童」「天狗」が一冊にまとめられた作品。大幅に加筆されているとのことだが、どのあたりが加筆されたのか分からなかった。3作とも「絡新婦蜘蛛の理」で登場した呉美由紀が登場し中禅寺敦子が事件を推理する。時系列的に並んでいるのだが、「鬼」が圧倒的なインパクトがある。

謎の辻斬り事件の犯人を探し出す物語なのだが、誰が犯人かというのもそうだが、それまでの連続辻斬り事件が練習であり、だんだんと斬り殺すのがうまくなっていることが強烈に恐ろしい。「鬼」に比べると、「河童」はかなりのんびりというかシリアス感が薄れている。おじさんの尻を覗く、連続覗き魔や尻をだした水死体など、かなり他2作と比べると印象が異なっている。

■ストーリー
昭和29年3月に起きた連続通り魔「昭和の辻斬り事件」。「稀譚月報」記者・中禅寺敦子は事件を通じて女学生・呉美由紀と知り合い、その年、続々発生する怪事件に関わることになる。「鬼の因縁で斬り殺される」「河童の仕業で連続水死」「高尾山中で天狗攫いが」。怪奇が、事件の真相を呼び起こす「稀譚小説」。

■感想
再読の形になるのだが、京極夏彦の作品は内容が難しいので結末やトリックはわかっていても、その過程を楽しむことができる。また、本作に限れば個別の作品の細かな部分まで、そこまで覚えていなかったので、ある程度新鮮な気持ちで楽しむことができた。

「鬼」は辻斬り事件を調査するのだが、そこでの被害者の女学生をめぐる推理がすさまじい。犯人は自供しているのだが、敦子が連想する犯人像とは異なる。だとすると誰が犯人なのか。犯人は何度も辻斬りを行い、次第に剣に慣れていく。最後には人を一発で殺害できるまで熟練する。真犯人が判明した際の衝撃はすさまじい。

「河童」は連続水死体を推理する物語だ。水死したのはおじさんばかり。それもベルトが切られ尻が丸出しの状態での水死体だ。これだけ読むとギャグ漫画のような展開ではあるが、シリアスな展開が続いてい行く。河童のような存在が尻子玉を抜いて殺したのだろうか。

他の2作と比べると、周辺の事情や河童の成り立ちについて詳しく語られており、肝心の水死体についてはサラリと種明かしされている。真相が判明するとなんてことないことだ。他作品と比べると、熱中度は下がる。

「天狗」は山の中で天狗にさらわれたのが如く、人が行方不明になる。序盤で、行方不明の人物の服を着た首つり死体がある場面は強烈な引きの強さがある。山の中でいったい何が起きていたのか。行方不明になった女性には事情があり、その事情がラストの衝撃的な展開の元となる。

人の趣味趣向は様々だが、時代によっては絶対に許されないと思う人がいる趣味趣向もある。当事者たちが人の入れ替わりを画策しての行動ではない。他者による入れ替わりというのがポイントだろう。

再読となるが、十分楽しめる作品だ。



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