2019.12.18 天狗が人をさらう 【今昔百鬼拾遺 天狗】
今昔百鬼拾遺 天狗 (新潮文庫) [ 京極 夏彦 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
高尾山の山中で行方不明になった女性がいた。また時同じくして自殺者や死体が見つかった。行方不明者はどこへ行ったのか。行方不明者の服を着て自殺していた者にどのような意味があるのか。失踪と死の連鎖にどのような関連があるのか。美由紀と敦子が事件を調査する。
時代が昭和初期のため、時代的な要素も大きい。代議士の娘である篠村美弥子と呉美由紀が謎に深入りすることで、新たな真実が見えてくる。天狗をどのような意味に捕らえるのか。山の中で人が行方不明になるとよく神隠しと言われるが、本作はまさにそのパターンなのかもしれない。敦子たちが詳細まで調査しなければ、神隠しで終わっていた事案なのかもしれない。
■ストーリー
昭和二十九年八月、是枝美智栄は高尾山中で消息を絶った。約二箇月後、群馬県迦葉山で女性の遺体が発見される。遺体は何故か美智栄の衣服をまとっていた。この謎に旧弊な家に苦しめられてきた天津敏子の悲恋が重なり合い―。『稀譚月報』記者・中禅寺敦子が、篠村美弥子、呉美由紀とともに女性たちの失踪と死の連鎖に挑む。天狗、自らの傲慢を省みぬ者よ。憤怒と哀切が交錯するミステリ。
■感想
是枝美智栄が高尾山で行方不明となる。親友である篠村美弥子は呉美由紀に相談し、美由紀から敦子に事件が伝わることになる。序盤では事件の概要が説明されるのだが、非常に奇妙だ。山に登ったまま行方不明となる。それだけなら山の中で遭難しただとか、どこかで滑落して山の中に取り残されていることになる。
実は行方不明者の服を別の自殺者が着ていた。なぜ服だけが変わっていたのか。そこから、同時期に複数の奇妙な死体があるというのがそれなりにミステリアスな雰囲気を深めている。
是枝美智栄は実は巻き込まれていただけ。別の部分にドラマがある。時代を反映した物語だ。特に昔からの風習や考え方を重んじる老人にとっては、今の先進的な考え方は到底理解できるものではないのだろう。
女は男を愛するもの。そして、男や年長者は当たり前のように偉く、女や目下の者は無条件にそれに従うしかない。歯向かうなんてのはもってのほかだ。女が女を愛するなんてのはありえない。それを知った家長は、家の不始末と考え排除しようとする。このあたりの考え方はまったく理解できない。
事件の真相は衝撃的な結末となる。古臭い凝り固まった考え方をもつ老人が、自分の孫娘を切り殺そうとする。それなりに老人からすれば許せない理由があるのだろうが、それを止めるのは老人の息子であり、孫娘の父親である男しかない。
そのために選んだ手段というのは…。山の中には天狗がいて人をさらってしまう。ある意味、その父親は天狗と同様だったのだろう。天狗がどういった理由で人をさらうのかわからないが、この父親は確固たる信念のもとに行動していた。
序盤までは強烈にミステリアスな展開だ。
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