鏡の顔 


 2020.11.8      大沢作品の短編いいとこどり 【鏡の顔】

                     
鏡の顔 傑作ハードボイルド小説集[ 大沢在昌 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
過去の作品の中でよりすぐりのハードボイルドを集めた傑作選。そのため、過去の作品を読んでいれば、読んだことのある作品を読むことになる。ただ、自分の場合は内容を忘れていた作品もあったので新鮮な気持ちで読むことができた。「新宿鮫」の短編や、「ジョーカー」の短編、そして探偵、佐久間公のシリーズなど、読むとそのシリーズの雰囲気を思い出すことができる。

大沢在昌作品を読んでいる人であれば、あえて読む必要はないだろう。ハードボイルド初心者や大沢作品を未経験の人はぜひ読んでみてほしい。ハードボイルドとはどんなもので、本作の内容があわないようであれば、他のハードボイルド作品を読む必要はないだろう。それほどの傑作選だ。

■ストーリー
フォトライターの沢原はカメラを手に街を彷徨っていた。心を揺さぶられるような、撮りたいものが見つからないのだ。感性が鈍ったのか、それとも才能が枯れてしまったのか。理由のない怒りを抱える沢原の歩みがふと止まった。鏡越しに対峙した男。その目は暗く沈んでいた。“こいつだ”。そのとき、男の背後から現れた女性に沢原は息を呑んだ。(表題作)。

鮫島、佐久間公、ジョーカーなど、作家生活40年を過ぎたハードボイルド小説界の重鎮・大沢在昌の人気キャラクターが勢揃いした傑作作品集。

■感想
どの作品も、ハードボイルド色が強い。主人公の男は寡黙で実力がある。多くを語らずに依頼を実行する。そのかっこよさもそうだが、そこに至るまで、周りの者たちが甘く見た言動を繰り返しながら、それを最後に覆すような展開が良い。

探偵佐久間の短編では、下っ端の警官に怪しまれるのだが、警視庁の幹部からは信頼の厚い佐久間という流れが良い。傷を負いながらも、目的を達成するためにクールに動く。探偵や裏稼業の男であっても、ハードボイルド風味はかわらない。

印象的なのは「ゆきどまりの女」だ。真っ暗な部屋でそこに待つ女を抱いてから殺せという依頼が入る。が、あべこべにその女に殺されてしまう殺し屋たち。部屋を真っ暗にして情事の後に女に殺される。

ある程度オチはわかるのだが、この女の存在が餌場に蜘蛛の巣をはり、それに引っかかった獲物を捕食する蜘蛛のように思えてしまった。作中ではそのような描写はなにひとつないのだが、殺し屋たちを次々と捕獲する恐怖の女郎蜘蛛のように思えてしまった。

「ダックのルール」も印象深い。佐久間が依頼を受けたのは黒人と日本人とのハーフの男。方腕のない元傭兵。戦友の娘と会うはずが、その娘が何者かに殺される。その場に居合わせた佐久間は、警察に疑われることになるのだが…。

探偵佐久間が妙に犯罪に対して潔癖な部分が意外だった。そこからダックと再会し、目的を達成するために共闘する。小粋な会話が繰り返され、ちょっとしたおしゃれなハードボイルドのような感じになっている。ハードボイルド初心者でも楽しめる流れだ。

大沢作品の初心者にはぜひ読んでほしい作品だ。



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