漂白の街角 大沢在昌


 2015.2.22      失踪人調査のかっこよさ 【漂白の街角】

                     
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■ヒトコト感想

感傷の街角」の続編。今回も佐久間公が失踪人探しとして活躍する。連作短編集として、ターゲットとなる失踪人が個性的でそこにドラマがある。単純な失踪人ではない。草野球チームのエースが失踪したのでチームが勝てないからと依頼がかかる。気の抜けるような依頼内容だが、失踪した人物はとてつもなく強固な信念と目的をもって失踪していた。このギャップが良い。

小粋な会話と、一筋縄ではいかない失踪人たちのバックグラウンド。失踪人調査のプロとして、公はハードボイルド的に激しい暴力を使うわけでもない。情報と仲間の力で解決してしまう。ハッピーエンドになるパターンがめずらしい、バッドエンドのばかりの短編集だ。

■ストーリー

“宗教法人炎矢教団総本部”この教団から娘・葉子を連れ戻してほしい―というのが今回の僕への依頼であった。僕が原宿にあるその教団へ娘を迎えに行くと、彼女は意外にも素直に教団を後にした。教団幹部の“オーラの炎によって彼女の身に恐しい出来事が起こる”という不気味な言葉を背に受けながら。依頼はあっさり解決した。但し、その肉のうちに葉子が喉を裂いて冷たくなっていなければ…。

(炎が囁く)街をさまよう様々な人間たち。失踪人調査のプロ・佐久間公が出会う哀しみと歓び。事件を通して人生を綴るシリーズ第二弾。

■感想
「ランナー」はかなり印象的だ。走ることが好きな男が草野球チームにスカウトされ、大活躍する。突然の失踪で困ったチームメイトたちは、失踪人調査を公に依頼するのだが…。失踪人探しの目的が軽いが、内容は非常に重い。

走ることが好きな男は、最後まで自分の目的を達成するために走り続けたい。それをひとたび邪魔されると…。バッドエンドな物語だ。人の思想や信念はどんなことでも変えることができない。目的のためにテロ行為を行うとしても、本人にとってはそれはゴールに他ならない。非常に印象深い短編だ。

「悪い夢」は、独特の怖さがある。冒頭、瀕死の公が、こんな依頼は受けなければよかったと思う。その理由は…。一匹狼の探偵・岡江が登場し、岡江が断った依頼を公が対応することになるのだが…。非常に恐ろしいというか、すべての元凶である女が恐ろしすぎる。

その前に、岡江が特別な理由を言わずに依頼をキャンセルしたことが、さらに恐怖を倍増させている。あの岡江が断るのには、何か強烈な理由があるに違いない、と読者は深読みしてしまう。その上での、冒頭の瀕死の公の描写があるだけに、なおさらだ。

「炎が囁く」は、宗教団体にはまった少女を救い出した公だが、その少女が何者かに殺される。宗教団体がオーラで少女を殺したのか…。若干、オカルト臭が漂ってはいたが、それは最初だけ。結局のところ少女はたたりに殺されたなんてことはない。

ただ、調査する過程での公と助っ人の沢木の行動が良い。沢木がいることで、暴力的な対決も有利に進めることができる。他の短編ほど物悲しさはない。後に引く後味の悪さもない。こんな単純なハードボイルドミステリーも良い。

失踪人調査のかっこよさには憧れてしまう。



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