希望荘  


 2017.2.20      悪意にまみれた人物たちの短編 【希望荘】

                     
評価:3
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■ヒトコト感想
誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」に続く杉村三郎シリーズ。今回は前作で離婚させられた杉村が私立探偵として様々な事件を解決する物語だ。連作短編集となっており、この杉村シリーズの特徴である、人の悪意が相変わらずすさまじい。このシリーズでは常に信じられないような悪意をもった人物が登場してくる。そして、最後に救いがあれば良いのだがそれもない。

前作など、最後の最後で杉村は離婚させられることになる。妻の浮気で離婚という強烈な結末となる。本作でも幸せな結末を迎えている短編はない。殺人事件が隠されていたり、人間のあさましさを感じたり。登場人物たちの悪意を全て受け止めるように、杉村が妙に丁寧で紳士的だということばかりが印象に残っている。

■ストーリー
家族と仕事を失った杉村三郎は、東京都北区に私立探偵事務所を開業する。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。

果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年発生した女性殺害事件を解決するカギが隠されていた!?(表題作「希望荘」)。「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」…私立探偵・杉村三郎が4つの難事件に挑む!!

■感想
表題作でもある「希望荘」は、依頼者の父親が亡くなる前に昔、人を殺したという告白から真相を調査することになる。幼いころに離婚した父親がその30年の空白期間に何をしていたのか知らない。そのため、人を殺したという告白の真偽はわからない。

杉村が調査する過程で、様々な真実が明らかとなる。根本にあるのは突発的に人を殺す人を目の当たりにした場合、人はどのような行動をとるのかということだ。明るい話ではないが、せめてもの救いなのは、事件が良い方向へと向かっているということだ。

「砂男」は、身重の妻を残し不倫の末失踪した男を探すという物語だ。なぜ不倫をしたのか。杉村が調査する過程で、男が実は不倫などしておらず、その正体すらもまったくの別人だということが判明する。戸籍を売り買いする心境と、前の人生ではいったい何があったのかという葛藤。

自分の子供が生まれるとわかると、子供を育てる資格は自分にはないと悩む男。それほどまでに苦しませる人生とはいったい何なのだろうか。本短編に登場してくる人物たちは、どこか心が壊れているように思えた。

「二重身」は、東日本大震災をテーマとした作品だ。アンティークショップの店長が、震災が発生した日にちょうど福島にいたことで被害にあい行方不明となったらしい。その店長を探すことを依頼された杉村は、店長周辺を調査するのだが…。

震災を理由とすることで、死体が上がらずとも行方不明者扱いにされてしまう。震災という言葉ひとつで、何の調査もされることなく、ひとくくりにされてしまう。本作では悪意ある行動は最後に暴露されるのだが、非常に恐ろしさを感じた。もしかしたら、震災を理由にした殺人が行われ、何の捜査もされることなく済まされているのではないだろうか…。

楽しい気持ちになれる短編ではない。



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