ペテロの葬列 


 2014.9.1      報われない善人、杉村 【ペテロの葬列】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

名もなき毒」で感じた強烈な怒りを、本作でも感じるかと思いきや…。シリーズとして巨大企業のお嬢様と結婚した杉村の人の良すぎる部分と、そこにつけ込む悪意が強烈だが、本作ではそれほどでもない。バスジャックの人質となった杉村が、バスジャック犯の目的と正体を調べる物語だ。きれいごと満載というか、怪しげなねずみ講に騙された側と騙す側の両方の苦悩を描いている。

ただ、人間、ここまで深く物事を考えるだろうか。バスジャックの部分は正直期待はずれかもしれない。ただ、最後の最後で強烈な隠し玉がまっている。シリーズとしてまだ続くのだろうが、相変わらず後味が良くない。作者はどこか性格がゆがんでいるのでは?と思えてしまう。

■ストーリー

今多コンツェルン会長室直属・グループ広報室に勤める杉村三郎はある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。事件は3時間ほどであっけなく解決したかに見えたのだが―。しかし、そこからが本当の謎の始まりだった!

事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠されていた!あの杉村三郎が巻き込まれる最凶最悪の事件!?息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ

■感想
バスジャックされたバスに乗り合わせた杉村。礼儀正しい言葉づかいと、紳士的な対応で、冷静にバスジャック犯をいさめる。結果として、犯人以外は無事だったのだが、バスジャック犯の目的のわからない行動に、杉村が調査を始める。

マスオさん状態である杉村は、架空の物語だということをわかっていても、良い人すぎると思ってしまう。奥さんのわがままや、周りのゴタゴタに対して、なぜかすべてを受け入れ、解決しようと努力してしまう。これほど善人である杉村が最後に報われないのは、あまりに悲しすぎる。

バスジャックの人質となった者たちで連絡を取り合い、調査を行う。そこでも、ひねくれた人物の登場が物語のアクセントとなっている。まっとうな善人とばかり思っていたが、どこか心が壊れている坂本。坂本がラスト間近にとんでもないことをしでかすのだが、到底理解できるものではない。

不倫の噂を立てられたり、会長の義理の息子ということで、周りからやっかみを受けたり。杉村が善人であればあるほど、周りの人間の悪意や厭な部分ばかりが印象に残ってしまう。

ラストは強烈だ。前作「名もなき毒」でも感じたことだが、なぜこうも無慈悲な事件が起こるのかと、信じられない気分で物語を読み進めた。バスジャックの事件が解決してめでたしとはならない。その後、杉村の本作での存在を根底から覆すような大きな出来事がある。

なぜ、作者はこの結末を選んだのか。人の不幸を喜ぶかのごとく、杉村にとってとてつもなく辛い出来事が待っている。後味は当然よくない。読み終わるとムカムカしてくる。が、読者をそんな気持ちにさせるほど、作者の筆力はすばらしいのだろう。

バスジャックの事件がすべて霞んでしまうほど、ラストは強烈だ。



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