誰か-Somebody 宮部みゆき


2009.3.5  読む人のモラルを試すように 【誰か-Somebody】

                     
■ヒトコト感想
最初はなんでもないことかと思いきや、調べていくうちに大きな謎が隠されている雰囲気となる。結局は別のことが原因だったというオチだが…。いくつかの事件が輻輳し、それぞれの犯人というか原因は最後に明らかとなる。読者に嫌悪感まではいかないが、イライラさせるような言動もある。この時点で作者の罠にはまっているのだろう。一人の亡くなった老運転手をめぐり様々な思惑が交錯する。誰が正しくて、誰がうそを言っているのか。モラル的なものを問いただすような本作。モラルのない人物にはしっかりとそれなりの印象をもつように仕向けられている。気づけば大団円とはいかないが、丸くおさまっているようにも見える。一つの出来事でここまで広がるのかという驚きの作品だ。

■ストーリー

今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの相談を受ける。亡き父について本を書きたいという彼女らの思いにほだされ、一見普通な梶田の人生をたどり始めた三郎の前に、意外な情景が広がり始める―。

■感想
平凡な男がある依頼から事件や出来事に行き着く。この平凡な男が単純に平凡なのではなく、義父が大会社の会長ということ。このことにどれだけ意味があるかは実は微妙だ。他人からは幸せでうまくやったように見えるが、本人とその実家にしたら想像以上に大変なこととなっている。そんな杉村三郎がふとしたきっかけから、ある一人の男の調査をすることに…。まず平凡な男であるだけに、主人公の特徴としては奥さんの実家が金持ち以外に特徴はない。現実はそうでないにしても、ものすごくマスオさん状態に見えてしまう。

本作にはいくつかのキーワードがある。伏線をたくみに使いながら、結末へと導いている。夫婦関係や恋人関係、はたまた家族の関係など、誰もがどこか心当たりがあるようなエピソードもあるかもしれない。ものすごく日常的で、特別な世界ではない。そのおかげで簡単に感情移入できるが、後半になればなるほど、なんだか言いようの無いむなしさや、やりきれない気持ちというのが浮かんでくる。まるで読む人のモラルを試すように、登場人物たちの行動をどう思うかを問いかけている。この行動は許せるのか、それとも許せないのか。人の価値観を諮る天秤のように、本作は読者へ問いかけている。

本作は事件としての深刻度よりも、周りの人間たちの対応ぶりに興味がわいてくる。何かあるなと感じさせる美人姉妹、そして被害者が昔勤務していた玩具店。わりと予想できる展開となるのだが、そこでの会話や言い争う言葉、そして事件を知らなければ知らないで済まそうとする人々。誰もが胸にズキリとくる痛いエピソードも含まれている。現代をテーマにしているだけに、サラリと読めるが、中身は意外にディープだったりもする。そのギャップと、資産家の娘と結婚した男の苦労というのが端々に伝わってくる作品だ。

本作はミステリーの部類に入るのだろうか…。



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