2011.12.9 名作ぞろいだ 【卒業ホームラン】
評価:3
重松清おすすめランキング
■ヒトコト感想
「まゆみのマーチ」と同じく、作者の自選短編集だ。今回は男子編ということで、これまた印象深い作品ばかりが選出されている。やはりというか、「ナイフ」や「日曜日の夕刊」などから選出されているところをみると、作者自身もこのころが一番作品に対して強い思い入れがあったのだろう。「エビスくん」や「フイッチのイッチ」などは、ほぼ丸々内容を覚えていた。最初に読んだと時の印象に比べると多少心構えができているのだが、それでも心が熱くなる。本作に収録されている作品を読んだときはまだ独身だったのだが、そこから結婚し、子どもが生まれた今読むと、また感想は違ってくる。父親の重みというか、子どもに対する気持ちというのを、ダイレクトに感じてしまう。
■ストーリー
少年野球チームに所属する智は、こつこつ努力しているのにいつも補欠の六年生。がんばれば必ず報われるそう教えてきた智の父親で、チームの監督でもある徹夫は、息子を卒業試合に使うべきかどうか悩むが―答えの出ない問いを投げかける表題作のほか、忘れられない転校生との友情を描く「エビスくん」などを含む、自身が選んだ重松清入門の一冊。
■感想
文句なく一番印象深いのは「エビスくん」だ。とんでもないいじめっ子であるエビスくんが、実は…。どんなにいじめられてもへこたれない主人公の気持ちというのは、おぼろげながら理解できる。きれいごとではなく、エビスくんという存在が寂しさを強調しているようにも感じられた。クラスの仲間との関係や、エビスくんの家庭の事情。そして、極めつけは、妹の病気など、とんでもない苦難を乗り越えながら主人公の男の子は逞しく生きる。全体のバランスがすばらしく、エビスくんはムカつくキャラのはずが、最後には不思議と受け入れる気持ちになってくる。
「フイッチのイッチ」は家族の事情というか、子どもの世界と大人の世界の微妙な違いをあらためて意識してしまった。子どもにとって両親がそろっているのが理想だろう。そんな当たり前の状況から逸脱した欠損家族と考える主人公。必死で働く母親や、同じような境遇の転校生など、離婚といういわば大人の都合を無理矢理押しつけられた子どもの見えない苦悩が印象深い。本人は意識せずとも、しだいにその影響はジワジワとどこかにでてくるのだろう。子どものためを思えば、離婚しないのが一番なのは当然だ。それができない大人の世界の複雑さがなんだか悲しくなってくる。
「サマーキャンプへようこそ」は、つい自分が父親の立場だったらと考えてしまった。プライドが高く、失敗する姿を息子に見せたくないために、なんだかんだと理由をつけて苦手なことから逃げるかもしれない。本作のお父さんは、子どものためを思い、また自分がインドア派ということを忘れ、アウトドアキャンプで惨めな思いをする。現代っ子の息子も、捻くれてはいるが、世間のことをよくわかった考え方をしている。それだけに、よけいな気をつかったり、斜に構えた姿というのは、父親の立場に立つと苦しくなる。
どれもが印象深い作品ばかりだ。作者のこの時代の作品は名作ぞろいだ。
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