2013.1.19 悪事を悪と感じない心 【ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件】
評価:3
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■ヒトコト感想
「理由」や「模倣犯」に近い雰囲気かもしれない。複数の登場人物たちの物語から、ひとつの事件が浮かび上がる。学校で起こった事件というのは、特別ミステリアスなものではない。それが昨今の社会情勢などから、殺人事件ではないかという噂がたつ。この噂から始まり、告発文と、タイミングの悪い状況から事態は思わぬ方向へと動いていく。事件にミステリアス性がないため、事件の真相を知りたいという気持ちにはならない。が、第一部で事件の様々なパターンが想定されており、そのどのパターンも裏切る展開になるのか、それとも単純なオチになるのかが気になってくる。うっすらとだが、悪事を悪とすら考えない人物が、すべてを引っ掻き回したという流れになりそうな気がした。
■ストーリー
クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した14歳。彼の死を悼む声は小さかった。けど、噂は強力で、気がつけばあたしたちみんな、それに加担していた。そして、その悪意ある風評は、目撃者を名乗る、匿名の告発状を産み落とした―。新たな殺人計画。マスコミの過剰な報道。狂おしい嫉妬による異常行動。そして犠牲者が一人、また一人。学校は汚された。ことごとく無力な大人たちにはもう、任せておけない。学校に仕掛けられた史上最強のミステリー。
■感想
事件が発生し、自殺と思われたものが実は…。事件の状況的にミステリー的な面白さはない。事件が収束したあとに、様々な噂が立ち、告発文がばら撒かれ、学校の対応がまずいこともあり事件は拡散していく。本作に登場する子どもたちは、ごく当たり前の子どもではない。特に、事件に深く関わる子どもたちには、何かしら大きな闇を心に抱えているように思えた。そのことが、もしかしたら事件の結末に大きな影響を与えるのかもしれない。事件自体は特別なものではないが、周りの状況により二転三転することで、複雑さを表現している。
本作では、大人たちでは理解しきれないモンスター的な子どもの存在を匂わせつつ、モンスターペアレントの存在も強烈に描いている。自分本位で何かあればすぐに暴力で対応する。現代社会ではありえないように思えるが、強烈なリアル感をおぼえた。そして、本作の中ではもっとも興味深く読めたのも、息子の不祥事をごまかそうとするモンスターペアレントと警察との対決の場面だ。悪が悪として裁かれない世界というのは、現実をなぞっているのだろうか。読んでいて登場人物に多少のイライラ感がつのるあたりは「名もなき毒」に近いかもしれない。
事件の真相は、今後はっきりしてくるのだろう。「模倣犯」のような強烈な引きの強さはないが、物語全体としての複雑さが続きを読ませたい原動力となっている。犠牲者がしだいに増えていき、告発文をばら撒いた人物がどのようになっていくのかは気になるところだ。最初の事件から間違っていたのか、それともその後の噂により物事が悪い方へ進んでいったのか。決して明るい未来へつながる物語ではない。これから、徹底した犯人探しと糾弾が待っているのだろう。それを思うと、憂鬱になるが、結末が気になるので読まないわけにはいかない。
相変わらず、作者が描く複数の登場人物で構成された物語はすばらしい。
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