模倣犯1 宮部みゆき


2010.2.19  先の見えない不気味な事件 【模倣犯1】

                     
■ヒトコト感想
事件の発端は公園で発見された女性の右手。そこから始まる物語は複数の出来事が複雑に絡み合い、狡猾な犯人と怒りを覚える被害者家族や警察、そして戸惑う第一発見者たちだ。本作ではこの長大な物語の序章ともいうべき部分なのだろう。正体不明な犯人の不気味さと、関係する人々の怒りと悲しみ。それらが十分に伝わってくる。さらには、一つの出来事に対して、関わる人々のバックグラウンドを詳しく描写している。そのため、チョイ役として登場するキャラクターまでしっかりと存在感がある。濃厚で壮大な物語。事件の本質や、繋がりがまだはっきりしない今の段階であっても、すでに事件の行く末の虜になってしまう。今後、真一の過去の出来事とどう関係していくのか。犯人の正体は?興味が尽きることはない。

■ストーリー

墨田区・大川公園で若い女性の右腕とハンドバッグが発見された。やがてバッグの持主は、三ヵ月前に失踪した古川鞠子と判明するが、「犯人」は「右腕は鞠子のものじゃない」という電話をテレビ局にかけたうえ、鞠子の祖父・有馬義男にも接触をはかった。ほどなく鞠子は白骨死体となって見つかった―。

■感想
まず第一段階として、ただのバラバラ殺人事件ではないという印象付けに成功している。犯人のあやしさとメディアに登場するキイキイ声。非常に狡猾で不気味な印象を読者に与えるだろう。それと対比するように、被害者家族や刑事たちの事件解決に対する強い思いも感じることができる。特に鞠子の祖父である義男の苦悩する姿と共に、機転を利かせた行動など、犯人の不思議さも手伝って、手に汗握る展開となっている。本作では、主要登場人物たちの紹介的意味合いも強いのかもしれないが、読み終わった時点では、どっぷりと模倣犯の世界にのめりこんでしまう。

第一発見者の真一の過去の事件と、今回の事件がどのような繋がりがあるのか。加害者の娘が登場したりと、何か大きな鍵となることは間違いないだろう。現段階では、まったく予想がつかない。二つの出来事にリンクする部分をまったく見出せないからだ。複数の関係者がそれぞれの思惑をもって動き回る。複雑になりがちだが、構成のうまさと時系列が整理されているので、混乱することはない。すべてが一つの出来事に集約するとは思えないが、どこかでわずかでも関係はあるのだろう。模倣犯というタイトルからも、何かしら想像しがちだが、まだ、その片鱗は見せていない。

かなりの長さであるにも関わらず、そのページ数はまったく感じなかった。一人ひとりのキャラクターの背景からしっかりと描いているため、キャラクターの人物像はしっかりと浮かび上がってくるが、その分スピード感はそこなわれている。事件は遅々として進まない。そのことが、若干の苛立ちが交じりながらも、ページをめくる手を止めることができない。早く続きを読みたいという焦りの気持ちをあざ笑うかのように、物語はゆっくりと丁寧に進んでいく。まだまだ先は長いと分かっているだけに、諦めてゆっくり楽しみながら読むのが正解なのだろう。

事件の真相を早く知りたいような、もっと楽しみたいような複雑な心境だ。

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