家族狩り 第四部 巡礼者たち  


 2013.5.9      想像外の真犯人像 【家族狩り 第四部 巡礼者たち】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

印象深い第三部から、急転直下の本作へと続く。事件の真犯人的存在がはっきりと姿を見せはじめた。おそらく、第三部までで連想する犯人像と、本作で初めて登場した犯人と思わしき存在は、一致しないだろう。第三部を読んだ直後の印象では、あまり関係のないエピソードと思っていたことが、実は真犯人につながる重要なエピソードだということもわかった。

そして、微かに復調の兆しのあった巣藤だけが、新たな方向へと動きだし、そのほかのキャラクターには辛い現実が待っている。特に馬三原などは、すべてがうまくいき始めた矢先の衝撃的な展開となる。これほど不幸に苦しむ人々をうまく描ける作者はすばらしい。読んでいて辛さから心が苦しくなる。

■ストーリー

孤立無援で事件を追う馬見原は、四国に向かった。捜査のために休暇を取ったのだ。彼はそこで痛ましい事実に辿りつく。夫に同行した佐和子は、巡礼を続ける者の姿に心を大きく動かされていた。一方、東京では、玲子のことを心配する游子と、逃避行を続ける駒田の間に、新たな緊張が走っていた。さまざまな鎖から身を解き放ち、自らの手に人生を取り戻そうとする人びと。緊迫の第四部。

■感想
事件の真犯人と思わしき人物の登場と、それらキャラクターの濃密な描写。どのような心境で事件を起こすに至ったのかは描かれていない。というよりも、はっきりと犯人だという描写はない。が、おそらく間違いはないだろう。ただ、真犯人だとしても、残酷な事件を起こすようには到底思えない。

心に何か闇を抱えているにしても、第一部二部で起こった拷問のような事件を起こすようには思えない。となると、何か人を激しく変貌させる力が働いているのだろうかと想像せずにはいられない。

第四部となり、今までのキャラクターたちに大きな変化がおとずれる。特に娘を児童保護施設へ入れられた駒田は、強烈な結末としか言いようがない。駒田と同じく娘を持つ親としては、駒田の心境は、自業自得と思いながら同情せずにはいられない。さらには、駒田の娘が、親を思う気持ちというのを知っているだけに、涙がこぼれそうになる。

駒田親子には幸せになってもらいたいと強く思えば思うほど、それをあざ笑うかのように、作者は無慈悲な結末を用意している。なぜ、こうも次々と…。物事が悪い方へ転がり落ちていく様は、奥田英朗の「最悪」に近い。

第三部で復活をとげた巣藤。そのまま新たな道へ一直線かと思いきや、何かしらの横やりが入りそうで恐ろしい。うまくいけばいくほど、大きな落とし穴が待っていそうで恐ろしすぎる。作者がこのまま何の障害もなく終わらせるとは思えないだけになおさらだ。

次の事件のターゲットが微かに見え始めてきた。それが、家庭崩壊へと進む亜衣の家族であり、そこに深くかかわる巣藤に、何かしら影響があるのは確実だろう。物語がどのような結末へ流れていくのかまったく想像できない。ひとりでも幸せなキャラクターがでることを祈るばかりだ。

不幸へ転落していく様は、見事としか言いようがない。




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