家族狩り 第三部 贈られた手  


 2013.5.1      心に響くエピソード 【家族狩り 第三部 贈られた手】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

第一部二部で発生した悲惨な事件。本作では、それらの事件を補完するように、登場キャラクター周辺に様々な変化が起こる。物語全体としては、中休み的な印象があるかもしれない。しかし、非常に重要なエピソードや、犯人と思わしき人物の存在をにおわせている。心を病んだ者たちが、微かに復活のきざしを見せ始めるのが特徴だ。

若者にリンチを受けた巣藤が、元教え子と偶然再会し、心に変化をもたらされる。悲惨な物語の中でも、人が立ち直ろうとするシーンというのは、心に活力がわいてくる。巣藤に今後、どのような出来事が待ちうけているかわからないが、立ち直ってほしいという思いを強く感じた。物語全体のトーンに反して、希望や感動がおしよせる部分だ。

■ストーリー

ピエロ。浚介は、生徒たちからそう呼ばれていたのだという。ふたつの事件を経て、虚無に閉ざされていた彼の心に変化が訪れていた。ピエロ。馬見原は今そう見えるだろう。冬島母子を全身全霊で守っているにもかかわらず、妻や娘との関係は歪んだままだから。また一つ家族が失われ、哀しみの残響が世界を満たす。愛という言葉の持つさまざまな貌と、かすかに見える希望を描く、第三部。

■感想
心を閉ざした者たちが、新たに発生した無理心中事件に心を奪われる。主要キャラクターたちの中で、転がり落ちるように悪い方向へと進む亜衣。亜衣が心に抱えた闇というのは、亜衣の心境が描かれているのだが理解が難しい。それは、大人が亜衣のことを理解できないのと同様に、人を不安な気分にさせる状況だ。

馬三原は、家庭崩壊の始まりが見え隠れしている。二重生活のような状況が、退院した妻にいつバレるのか。幸せになってもらいたい家族であればあるほど、崩壊が避けられない状況なだけに、読んでいて苦しくなる。

陰鬱な物語の中で、巣藤だけは吹っ切れたような状況となり光が見え始めた。元教え子と偶然再会し、そこでリンチされたトラウマが払拭される。この部分では、不安定な巣藤の心がみるみる良い方向へと流れていくのが、手にとるようにわかる。

読んでいる間中、このまま巣藤には幸せな人生を歩んでほしいという思いが強くなる。が、微かに、今後の物語において、重要なカギとなるような描写もある。巣藤が元教え子と心を通じ合い始めたさなかに、何か大きな落とし穴があるような気がしてならない。終始ハラハラしながら読みすすめた。

主要キャラクターではないが、馬三原の後輩とその父親のエピソードは思わず涙がこぼれそうになる。もしかしたら、物語全体としてはほとんど意味をもたない部分なのかもしれない。が、古い家のシロアリ駆除作業を通して、親子の絆が深まる。

癌におかされた父親と息子の会話というのが、なんとも良い雰囲気を醸しだしており、ポツリとつぶやく一言に心打たれてしまう。何もかもわかっている父親と告知の決断をする息子。なぜこんなに感動するのかわからないが、心に響いてしまった。

家族狩りという物語の中では、中だるみ的な位置づけかもしれないが、自分にとっては印象深いエピソードがつまっていた。




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