2011.2.9 最悪な状況に心がキリキリ痛む 【最悪】
評価:3
■ヒトコト感想
読めば読むほど辛く苦しくなる作品だ。三人の登場人物たちの最初はうまくいっていた生活が、だんだんと破壊されていく様を読まされると、ジワジワ拷問を受けているような気分になってくる。それぞれのキャラクター描写がすばらしく、知らず知らずのうちに感情移入してしまう。人生に波があるように、登場人物たちにも良い時期がある。その先にどんな最悪なことがまっているのかわからないが、つかの間の幸福を一緒になって喜んでしまう。その後、絶対に良い方向へは進まないとわかっていながら、ページをめくる手を止めることができなかった。不幸な三人が集まり、逃げ場のない状況へ追いつめられたとき、最悪な事態を想像するしかなかった。ラストがそれなりに前向きなのが唯一の救いか。
■ストーリー
不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢や、取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。
■感想
三人の登場人物たちは、それぞれ悩み苦しみはあるが、普通に日々の生活を過ごしていた。そして、この先もずっとその生活が続くと思われていた。何がきっかけというのはなく、雪崩のように次々と最悪なことが起こる。読者は決して良い方向へ進まないとわかっていながら、ただ傍観者として読むしかない。思わず「ああ、そんなことをしたら、このあともっと大変なことに」と何度思ったことか。それほど、キャラクターたちに感情移入し、すべてがうまくいくハッピーエンドを願っていた。しかし、物語は真逆の方向へと速度を上げて進んでいく。
特に心が苦しくなるのは、川谷の場面だ。下請け工場の苦しい立場で、親会社からの要求には嫌とは言えず、近所の住人との騒音問題に頭を悩ませ、従業員の引きこもりに困惑する。確実に善人のはずだが、少しづつ歯車が狂い始めると、もう修正は不可能となる。川谷が直面したどうしようもない状態というのは、同情せざるお得ない。問題が山積みとなり、頭が混乱するというのはよくわかるだけに、読んでいて心がキリキリと痛んできた。これほど辛い状況がありえるのだろうか。すべての不幸が一度に襲い掛かってきたような感じだ。
最悪な三人が、最悪な状況をそれぞれ引き連れたまま、出会う。そして、最悪を上回る最悪な状態となり、身動きがとれなくなる。この状況に自分が陥ったとしたら、一体どういった選択をするだろうか。とっさに考えたのは、最悪の決断だった。物語的にもその流れしかないのかと思ったその時、かすかな希望が見えてくる。最悪な中で、結局最悪ではないにしろある結末を迎える。終始、辛く苦しい物語ではあったが、最後の最後には希望の持てる終わり方となっている。壮大なカタルシスを得るわけではないが、すっきりとした読後感はある。
ここまでキャラクターに感情移入したのは久しぶりかもしれない。
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