覆面作家の夢の家  


 2011.12.1  キャラクターに決着をつけた 【覆面作家の夢の家】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

覆面作家シリーズの最終巻。いつものお嬢様作家と編集者の特徴というのはそれほど目立っていない。二人の淡い恋愛模様をベースとして、日常の謎を解き明かすといった感じだ。そうなってくると、女子大生シリーズとの差別化が難しくなってはくるが、あちらは文化レベルの高いマニアックな内容に特化しているので、こちらの方が一般人にはやさしい作りだろう。お嬢様の二重人格はすでに当たり前のこととして処理され、大富豪ということにも特別な何かはない。双子の兄が刑事だというリョウスケについても、その特徴は特に活かされていない。シリーズの資産を使い、総まとめとしてキャラクターに決着をつけたかったのだろうか。終始ほのぼのとしているのは、いつもどおりだ。

■ストーリー

12分の1のドールハウスで行われた小さな殺人。そこに秘められたメッセージの意味とは!?天国的美貌を持つミステリー界の人気作家「覆面作家」こと新妻千秋さんが、若手編集者、岡部良介とともに、残された言葉の謎に挑む表題作をはじめ、名コンビが難事件を解き明かす全3篇を収録

■感想
三つの短編からなる本作。「覆面作家と謎の写真」では、人の瞬間移動?と思わせるような謎が登場する。東京ディズニーランドで、存在しないはずの人物が写真に写っている。心霊現象ではなく、まぎれもなくしっかりとした理由がある。ディズニーランドを舞台としたのは、リョウスケとお嬢様の進展をにおわせるためだろう。本作こそまさに、日常のちょっとした謎だが、それを鮮やかに推理し、解き明かすお嬢様は、女性の恋愛心理を知りつくしているようにも思えてくる。

「覆面作家、目白を呼ぶ」では、王道ミステリー的なトリックとなっている。贈与税の話も興味深く、不可解な事故が意図したものかという長編ミステリーのネタとなりそうなものだ。実は本作を読む前に「ミステリーは万華鏡」を読んでしまい、作中には本作に対するトリックへの思いがつづられていた。ある意味ネタバレだったが、それを読んだとしても十分に楽しめた。トリックの伏線もしっかりと利いており、練りこまれたトリックだというのがよくわかる作品だ。

最後の「覆面作家の夢の家」は、作者の女子大生シリーズの「朝霧」などのように、文化レベルがある程度高くなければ楽しめない作品だ。今回は、ダイイングメッセージがポイントなのだが、「朝霧」と同じように、小難しい暗号といった方がいいかもしれない。暗号が解かれたとしても、そのプロセスについて説明されても「ああ、そうなのか」という程度の感想しかない。百人一首を詳しく知っていれば、また違った感想をもつのかもしれない。まぁ、なにはともあれ、お嬢様とリョウスケの関係が進展したということで、シリーズは終了ということなのだろう。

文化レベルが一定以上であれば、確実に楽しめるだろう。




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