朝霧 北村薫


2011.11.23  文学的知識が必要だ 【朝霧】

                     
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■ヒトコト感想

このシリーズでは、主人公である「私」の成長が感じられるのがポイントのひとつだ。本作では女子大生だった「私」がとうとう社会人となり、さらにはおばさんにまでなってしまう。時間の流れを感じさせつつも、いつもの日常の謎についての問いかけと、小難しい古典や詩のはなしなどが続いていく。前作もそうだが、文学的知識が必須なのだろう。難しい問いかけに対して、円紫が鮮やかな回答を示す。それは確かにすごいことなのかもしれないが、いまいちそのすごさを実感できなかった。謎の根本をあまり理解していないと、回答に対しての感動も抑えられてしまう。出版社で働きながらも、雰囲気や世界観は今までと変わらず、どこかほのぼのとした印象がある作品だ。

■ストーリー

前作『六の宮の姫君』で着手した卒業論文を書き上げ、巣立ちの時を迎えたヒロインは、出版社の編集者として社会人生活のスタートを切る。新たな抒情詩を奏でていく中で、巡りあわせの妙に打たれ暫し呆然とする「私」。

■感想
前作の雰囲気をそのまま引き継いでいる。卒論を完成させ、就職し、編集者として働く「私」。ただ、そこには先輩編集者や、作家や円紫との文学についての濃い話がツラツラと続いていく。はっきりいえば、ほとんど理解できなかった。古典や詩については、ほとんど興味がなかったというのもあるが、当たり前のように繰り出される単語が理解できないと、少し退屈に感じてしまう。文章として文字を追ってはいるが、理解して楽しむという境地までは、達することができなかった。

「走り来るもの」では、「私」の姉が結婚し子どもが生まれたことから、おばさんとなる。女子大生時代の「私」の物語の流れからすると、かなり展開が早い。しかし、それは年齢と共に感じる時間の流れの違いを言いたいのだろうか。ついさっき就職したかと思うと、あっという間におばさんになってしまう。社会人となった「私」ではあるが、字ずらだけを追いかけていると、女子大生のころとほとんど変わらないように思えてくる。ただ、おぼさんになり、編集者としての経験を描かれると、時間の流れを否が応でも感じずにはいられない。

「朝霧」では祖父の日記の謎にせまるのだが、これまたハードルが高い。ちょっとした暗号となっており、いつもどおり円紫が答えを示すが、そのすごさが理解できなかった。とんでもない知識に裏打ちされた答えなのだろうが、想像を超えたことなので、処理しきれなかった。暗号のたぐいであれば、ミステリーでは定番のある程度の流れがある。それらを使わず、知識のみでの答えであれば、本作のようになるのだろうが、赤穂浪士に詳しくなければ、ふーんという感想しかない。

このシリーズはかなりの文学的知識を読み手に求めてくる。



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