2011.8.30 普通で純朴な女子大生 【空飛ぶ馬】
評価:3
■ヒトコト感想
日常のちょっとした謎を女子大生と噺家の円紫が解決する連作短編集だ。落語について詳しければより楽しめるだろうが、落語に興味がなくても問題はない。事件を解決する探偵役である円紫の、なぜかあっさりと事件を解決するその推理力には納得できないが、全体の雰囲気が純朴というか優しさに包まれている。それはすべて主人公である”私”のキャラクターからだろう。どこにでもいる普通の女子大生だが、恋愛に奥手で、趣味は読書。化粧もせず、お洒落にもそれほど気をつかわない。いまどき珍しいこの純朴さが、ミステリーにありがちなトゲトゲとした雰囲気を消している。円紫の超人的な推理より、”私”の日常を読んでいるといった方がいいかもしれない。
■ストーリー
「織部の霊」「砂糖合戦」「胡桃の中の鳥」「赤頭巾」「空飛ぶ馬」女子大生と円紫師匠の名コンビここに始まる。爽快な論理展開の妙と心暖まる物語。
■感想
噺家である円紫が、日常のちょっとした謎を解く。ただその謎を含め、全体の雰囲気がノンビリとしており、いまどきありえないような純朴さをもった女子大生である”私”の生活が描かれている。落語に興味があれば、あいまに登場する小噺を楽しめるが、まったく興味がないので、そのあたりが謎とどのように深く繋がっているか、はっきりとは理解できなかった。その他にも文学的な知識や、芸術的な知識が豊富な作者らしく、むずかしくて理解できない部分もある。そのあたりの、小難しい知識が、”私”のマジメさを印象付けている。
それぞれの短編で一つの不可解な出来事が起こり、それを円紫が解決するという流れで、衝撃的な事件というのではなく、ごく普通に日常で起こりそうなことだ。そのため、事件のインパクトが少ないので、ミステリーとしての種明かしを楽しむというのがあまりないかもしれない。そのかわり、”私”の日常を読んでいると、落ち着いた優しい気持ちになってくるから不思議だ。これほどギスギスしたところがなく、嫉妬や恨みつらみが直接的に表現されていないミステリーというのは珍しい。この”私”の純朴さが人をひきつけるのだろう。
円紫が語る種明かしに、すんなりと納得できるかどうか。その情報でそこまで推理するのは飛躍しすぎていないか?と思うことが多々あり、強引な印象はぬぐい去れない。それでも、強引に進んでいく物語の波に自然とのまれてしまう。流れにつれられ読んでいると、自分に落語と文学的の知識が無いことを思い知らされる。女子大生である”私”が語る本のタイトルにもほとんどピンとこなかった。本作を読んだからといって、落語に興味をもつということはないが、抵抗感はなくなったかもしれない。
このキャラクターでシリーズは続くのだろう。読んでいけば、落語と文学の話についていけるようになるのだろうか。
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