日暮らし 上 宮部みゆき


2009.9.6  人物紹介からなる上巻 【日暮らし 上】

                     
■ヒトコト感想
作者得意の時代設定。初ものがたり天狗風などのように江戸深川を舞台とした本作。現代でいうところの刑事である岡っ引きが、不思議な事件を解決する。時代が江戸というだけで、現代のミステリーとほぼ変わらない。しかし、そこは時代物独自の面白さが付け加えられている。いくつかの短編で登場人物を紹介しつつ、この後に大きな物語が控えているのだろう。ミステリーとして特別なトリックがあるわけではなく、人の悩みやちょっとした気持ちの行き違いから発生する出来事を語っている。人物紹介的な意味合いもある上巻は、多少物足りない感はある。それでも、物語のベースとなる深川一帯の雰囲気は十分感じることができる。

■ストーリー

浅草の似顔絵扇子絵師が殺された。しかも素人とは思えない鮮やかな手口で。「探索事は井筒様のお役目でしょう」―。岡っ引きの政五郎の手下、おでこの悩み、植木職人佐吉夫婦の心、煮売屋のお徳の商売敵。本所深川のぼんくら同心・平四郎と超美形の甥っ子・弓之助が動き出す。

■感想
物語の探偵役ともいえる平四郎。そして、事件を解決へ導く弓之助。基本はこの二人の周りで起こる不可解な出来事を解決していくという物語だ。事件ごとに短編となっており、それぞれは程よい長さでまとまっている。特別印象的な部分はないが、全体を通して深川の雰囲気を味わうことができる。現代小説では描けない、日々の生活を生きる人々。食べることに精一杯ながら、ささやかな楽しみもあり、男女関係のもつれがある。時代物ならではの特殊な雰囲気が好きなら、すぐさまはまり込んでしまうことだろう。

事件の解決には平四郎と弓之助が重要な役割を果たす。しかし、特殊な能力を示すのではなく、何気ない言葉や雰囲気から、相手を懐柔し、相手に何かを悟らせたりもする。時代物をベースとした普通のミステリーと思っていると物足りなく感じるかもしれない。本作は、ミステリーというよりも、そこに生きる人々の姿を描いた時代小説として考えた方がいいのだろう。事件はしっかりと解決まで描かれてはいるが、あまり重要ではないように感じられた。

上中下巻となる本作。短編集なので分ける必要があるのかと思ったが、どうやら短編の中に登場する人々が、その後の短編に登場してくるからだろう。ひとつの出来事を描きつつ、そこに登場する人物がどんな性格で、どんなキャラクターなのか、それらをしっかりと描いている。そのため、その後の短編で登場したときには、頭の中にキャラクター像が出来上がっているため、簡単に物語りに入り込め、さらには感情移入もしやすくなる。

おそらく、今後短編を重ねていくにつれ、より面白さが増していくのだろう。

 中巻へ



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp