日暮らし 中 宮部みゆき


2009.9.9  山場への繋ぎ 【日暮らし 中】

                     
■ヒトコト感想
上巻の短編で登場した、様々な登場人物たちが、ここへきて一気にひとつの事件の関係者となる。佐吉の無実をはらすために奔走する平四郎。事件を調べていくうちに様々な関係者が登場することになる。それらの関係者は皆、上巻の短編で登場したキャラクターたちだ。上巻がキャラクター紹介というのであれば、中巻は大きな山場へつなぐ、大事な中継ぎとでも言うのだろうか。事件はいたってシンプルなのだが、そこに関わる複雑な人間関係によって、物語は右往左往することになる。上巻のエピソードが利いている場面が多数登場し、続き物だということをしっかりと認識させている。すでにキャラクター紹介が終わっている段階なので、感情移入できる度合いも相当高まっている。

■ストーリー

佐吉が人を殺めた疑いを受け、自身番に身柄を囚われた。しかも殺した相手が実の母、あの葵だという。今頃になって、誰が佐吉に、十八年前の事件の真相を教えたりしたのだろう?真実を探し江戸を走り回る平四郎。「叔父上、わたしは、本当のことがわからないままになってしまうことが案じられるのです」。

■感想
佐吉の無実を晴らすため、事件の真相を探ろうとする。事件はそう複雑でも、不思議なことでもない。作者得意の霊的なものでもない。ただ、事件の真相を調べていくうちに、様々な人物が浮かび上がり、その人間関係の複雑さで事件を面白く導いている。さらには、江戸の庶民の暮らしをさらに強烈ににおわせ、そこで生活する人々の暮らしが手に取るようにわかる作品でもある。おそらくだが、物語の性質上、事件にまったく無関係なキャラクターは登場しないように思われる。だとすれば、料理屋の彦一なども何か関係しているのだろうか。

真実を探し求め、探偵役として奔走する平四郎。そのアドバイザー役を担う弓之助。事件がメインであることに変わりはないが、江戸で暮らす人々の暮らしを眺めるという面白さも本作は重点的に描いている。江戸の暮らしの中に登場する、屋形船や数々の料理。ちょっとした甘いお菓子や、なんてことないお茶まで、本作に登場するすべてが、かなり興味深いものとして、頭の中に記憶されている。強烈なインパクトを残す事件でないかわりに、そこに関係する人々の日々の生活を描く。必然的に感情移入もしやすくなるというものだ。

下巻では事件の真相が明らかになるのだろう。定番どおりであれば、あっと驚くような人物が真犯人となる。おそらく上巻のエピソードのどこかで登場したキャラクターであることは間違いないだろう。きな臭い物語もあった上巻に比べると、本作はひとつの事件を中心にその周辺をだんだんと溶かしていくような感じだろうか。次第に事件の真実が見えてくる様は、見ていてとてもここちよかった。下巻に対する楽しみがいっそう強くなる作品だ。

複雑な事件ではないかわりに、人の心が深く関わってきそうな気がした。

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