プラチナハーケン1980 [ 海堂尊 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
時系列的には「ブラックペアン1988」の前にあたる本作。ブラックペアンで高階と対決した渡海がメインで描かれている。超絶的な手術の技巧をもつ渡海。どのようにして渡海はその技術を身に着けたのか。そして佐伯教授との因縁はどうやって生まれたのかが描かれている。ブラックペアンを読んでいた方がより楽しめるのは間違いない。読んでいないとしても、医局内部の権力争いや、教室が分離することの影響などが事細かに描かれている。
渡海のように圧倒的な技術で周りから評価される者もいれば、政治的な立ち回りで出世する者もいる。渡海が技術はぴか一だが、言うことを聞かず役職にも興味がないとくると、上司は何を餌に言うことをきかせるかは悩みどころだろう。
■ストーリー
昭和の終わりの足音が聞こえる中、東城大学医学部総合外科の佐伯教授は、若きヒラ医局員・渡海征司郎を大抜擢した。彼は周囲の医局員の反感を買いながらも次々に高度な手術を成功させる。やがてオランダの国際学会に教授の名代として送り出された渡海は、その地で新たな因縁と巡り会う。そして帰国後、ある患者のカルテに不審を抱いた彼は、佐伯外科の深い闇へ足を踏み入れていく……。
■感想
あの渡海も新人時代はかわいいものだったということがわかる。佐伯教授を尊敬し、様々な経験をへて技術を磨いてきた。研修医の過酷の給料事情や、生活するために他の病院で当直のアルバイトをするなど、他作品でも語られているような研修医の苦しい台所事情が語られている。
そんな中で、渡海は研修先の医者に気に入られ、次々と難解な手術にチャレンジさせられていた。普通に病院勤務では経験できない専門外な外科手術も経験し、渡海はメキメキと手術の腕を上げていく。
教室内部の権力争いが本作のメインだ。佐伯教授がトップの総合外科教室。そこから独立すれば新たな教室ができ、そこで教授となれる。消化器外科や肺外科や脳外科など。。。いちはやく独立していく者たちを見て、不満に思う助教授たちもいる。
一国一城の主となるために暗躍する肺外科の木村。それを知りながら独立にGOを出さない佐伯教授。主役である渡海はそれを眺めながら、佐伯教授のお気に入りのため、何かと出世を打診されるが、渡海はすべて断っている。
教室内の独立のゴタゴタと共に、ブラックペアンの謎に気づき始める渡海が描かれている。佐伯教授が自分のミスを隠蔽し、そのまま患者のおなかの中にペアンを残していると思い込む渡海。その答えは「ブラックペアン」で解明されるのだが…。
渡海は自分の父親と佐伯の関係や、ブラックペアンの件で、佐伯に対しての対立を決定的にする。佐伯は渡海の思いを知りすべてを受け入れることになる。天才外科医の渡海がどのようにして作り上げられたのかがはっきりする物語だ。
本作、「ブラックペアン」「ブレイズメス」「スリジエセンター」と時系列に読むのもよいだろう。