2010.4.27 チームバチスタの原点 【ブラックペアン1988 上】
■ヒトコト感想
チームバチスタシリーズの登場人物のルーツともいうべき作品。まだ学部生の田口と速水。そして理解ある病院長であった高階は講師として登場する。シリーズを読んでいれば、より面白く読めるだろう。田口は昔から田口的性格であり、速水はすでにこのころから独特な感覚を磨いている。物語全体として、革新的な道具に頼る高階と技術だけを信頼する渡海の対決形式となっている。普通の医療系の小説では、金にものを言わせて道具や設備に力を入れるよりも、最後には技術だという流れになるだろう。おそらく本作はまったく逆だ。一握りの技術に秀でた者のみが患者を救えるのではなく、システムとして多くの患者を救う方法を探る。どちらにも良い悪いがあるが、その結論は下巻ではっきりするのだろう。
■ストーリー
一九八八年、世はバブル景気の頂点。「神の手」をもつ佐伯教授が君臨する東城大学総合外科学教室に、帝華大の「ビッグマウス」高階講師が、新兵器を手みやげに送り込まれてきた。「スナイプAZ1988」を使えば、困難な食道癌の手術が簡単に行えるという。腕は立つが曲者の外科医・渡海が、この挑戦を受けて立つ。
■感想
相変わらず作者の作品は強烈なインパクトを残すキャラクターが登場する。今回は圧倒的に渡海だ。そのアウトローで自由気ままな雰囲気。周りからは疎まれてはいるが、手術の技術はずば抜けている。勤務時間も不定期で自由気ままだが、手術になるとアクロバティックな方法で患者を救う。教授からも一目おかれ、圧倒的技術は誰もが尊敬せざるおえない。さらには患者に対しても独特な考え方を持ち、患者に全てを告知し手術のリスクや生存確率などもすべて明らかにする。作中ではまだ学生の速水もその考えに同意しているが、この手のキャラクター造詣はすばらしい。
先進的な道具を取り入れようとする高階と技術のみを信じる渡海。この二人の対決に狂言回し的な世良が物語を進めていく。どちらが良いという結論は簡単には出せないのだろう。ただ、本作の最初に、この時代が医療技術に大きな影響を与えたとあったので、何かしらの大きなアクションがあるのだろう。チームバチスタに始まる物語の原点というべき本作。シリーズを読んでいれば、本作に登場するキャラクターがどんな性格で、未来にどういったことをするのかわかっているだけに、格別な面白さがある。
本作のラストでは、渡海が癌患者に全てを告知し、半ば究極の選択の状態から患者に決断を迫る。渡海の言葉はかなり暴論のようだが、納得はできる。逆に反論していた田口の言葉がやけに青臭く感じてしまった。このあたりはしっかりとキャラクターの役割分担ができており、速水と田口の対決形式も出来上がっている。下巻につづくこの手術は無事成功するのだろうか。そして、高階と渡海の対決は…。その後のシリーズに渡海というキャラクターが一切登場しないことから、何かがあるのだろうが…。下巻への引きの強さは相当なものだ。
シリーズの原点とも言うべき本作は、ぜひともそれまでのシリーズを読んでから読むべきだ。
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