歌の終わりは海 


 2022.6.22      あえて人には死の自由があることを知らせるため 【歌の終わりは海】

                     
歌の終わりは海 Song End Sea (講談社ノベルス) [ 森博嗣 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
小川の探偵シリーズ。西之園が登場したりと古くからの作者のファンにはいつもの流れがあり、うれしくなるのだろう。基本は探偵が作詞家の浮気調査をしている中で、作詞家の姉が奇妙な自殺をする。その自殺がどのようにして行われたかがメインだ。ある意味、安楽死的に死を選ぶことを一般に認知させるための行動なのだろう。他者に何かを訴える意味では強烈だ。

あえて話題になるような死に方を選ぶ。家族や身内はすべてを知っており、殺人の疑いがかからないように事前に準備をする。探偵の依頼すらも、すべて計画的で第三者としての監視の目がある状態でアリバイを主張したかったのだろう。大きなどんでん返しはないのだが、なんだか考えさせられる作品だ。

■ストーリー
妻の依頼は、浮気調査だった。夫は、数多くのヒットソングを生み出した作詞家。華やかな業界だが、彼自身は人づき合いをしない。そのため彼に関する情報は少なかった。豪邸に妻と息子と暮らし、敷地内には実姉の家もあった。苦労の多かった子供時代、生活を支えた姉を大切にしていて、周辺では「姉が恋人」と噂されていた。探偵による監視が始まった。浮気の兆候はない。だが妻は、調査の続行を希望。そして監視下に置かれた屋敷で、死体が発見される。

■感想
森博嗣の「すべてがFになる」から続くシリーズ。探偵が事件を調査するオーソドックスな作品だ。作詞家の浮気調査が前半のメインだろう。冒頭に作詞家がどのようにして成功してきたかが描かれている。姉との関係と、特に大きな野望もなく気づけば作詞家として売れっ子になっていたことが強調されている。

何不自由なく暮らしてきた作詞家は浮気をしているのか。小川たちの調査がメインではあるが、不思議な雰囲気が流れている。何一つ浮気の兆候がないだけに、空調査のような雰囲気がある。

作詞家の姉が自殺したことで事態は大きく動いていく。車いす生活をしていた姉が天井の高い場所にロープを通して首つり自殺していた。到底足が不自由な人が行える自殺ではない。どことなく初期の「笑わない数学者」的な雰囲気がある。

事件性はないのだが、なぜ奇妙な自殺方法を選んだのか。建物に何かしらの仕掛けがあるのか。作詞家の心情風景があまり描かれず、どのような思いでいるのかは想像するしかない。探偵の調査により真実が明らかになるのだが…。

作者は、人に死ぬ権利を与えるべきだと訴えたかったのだろう。病気で体が動かない状態で、本人に生き続ける気力がない場合、自殺は許されるべきなのか。家族が自殺を手伝った瞬間に犯罪となる。この理不尽な状況を変えるために、ありえない自殺を演出し殺人か自殺かを戸惑わせる効果がある。

さらには、探偵に浮気の調査として監視させることにより、身内のアリバイを第三者に証明させている。事件ではないのでミステリー的な面白さは少ない。

何かを考えさせられることは間違いない。



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