笑わない数学者 森博嗣


2005.10.8 数学というよりも哲学だ 【笑わない数学者】

                     
■ヒトコト感想
天才が登場し、なにやら難しい問題を一般人に対して問いかける。
その問いかけに対して物語の登場人物達と同じように僕自身も試行錯誤し考える。
登場人物と同じような感想を持ったときは、かなりのめり込んでいる証拠だ。
天才であるが故に一般人からするとどうしても哲学的に感じてしまう。
しかし、僕はこの雰囲気が好きだ。難しい問いに対して物語の中の人物が
必ず何かしらの答えを用意してくれる。
それが納得いかなくとも、その過程が楽しいのかもしれない

■ストーリー
偉大な数学者、天王寺翔蔵博士の住む「三ツ星館」。
そこで開かれたパーティの席上、博士は庭にある大きなオリオン像を消してみせた。
一夜あけて、再びオリオン像が現れた時、2つの死体が発見され…。
犀川助教授と西之園萌絵の理系師弟コンビが館の謎と殺人事件の真相を探る。

■感想
冒頭のオリオン像が消えるトリックはミステリー慣れしている人ならばすぐに分かるだろう。
しかし、トリックが分かって殺人のトリックも自ずと判明しても、物語の面白さが
半減するわけではない。
僕自身が純粋なミステリー好きなわけではなく、そこに付随するキャラクターの生活や、
物語の構成に興味を引かれる方なので、トリックに関しては何も問題はない。

この作品の面白さの本質はなんなのか考えたとき、ぴったりとはまる言葉を探すことができなかった。
細かく考えると天才数学者である天王寺翔蔵と犀川のやりとりや、翔蔵が出した問題に対する
周りの反応とそれに回答する萌絵達の問答など興味深い箇所は沢山あるのだが、それは全体の一部分にすぎない。

本作というかおそらく全ての森作品に言えることなのかもしれないが、最初の印象では
ものすごく小難しいことを並べて書いてあるような印象を受けたが、
それが読んでいるうちになぜか気にならなくなりすらすらと読み進めることができる。
難しい内容もなぜか簡単にアタマに入ってしまう
読み終わった時には自分がちょっとアタマが良くなったような錯覚さえ覚えてしまう。

あまりに哲学的過ぎたり抽象的過ぎたりすると、読者を置いてけぼりにしてしまいがちだが
本作はその微妙な加減がすばらしく、数学的な理論で難しいことを述べているようだが
それをとても分かりやすく説明してくれている。

文章の読みやすさと数学という一般人には嫌われがちなネタを用いつつも
飽きさせず、サラリと読み進めさせるあたりは作者の力量にほかならない。



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