飛び立つ季節 旅のつばくろ 


 2023.1.12      ライトで大人な旅エッセイ集 【飛び立つ季節 旅のつばくろ】

                     
飛び立つ季節 旅のつばくろ [ 沢木耕太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
作者の旅エッセイ。「旅のつばくろ」の続編的扱いなのだろう。執筆時期はコロナ渦の真っ只中なので、マスクや検温、消毒などの描写もある。作者といえば旅なので、作者の旅エッセイにはある程度信頼がある状態で読み進めることになる。青年時代に旅した場所に再び訪れたりもある。歳を重ねた作者が、若いころとは違った旅をする。

当時の回想を含めながら、旅をする。印象的なのはちょっとした出会いで地元の人と会話をする場面だ。のんびりと散歩をしたり、城や滝などを見てまわったり。「深夜特急」の時のような貧乏で危険に満ち溢れた無謀な旅ではない。落ち着いた雰囲気が満ちている旅エッセイであることは間違いない。大人の旅エッセイだ。

■ストーリー
いつだって旅はある。そう、夢の場所がある限りは――。16歳のとき初めて一人で旅した秋田県男鹿半島、檀一雄の墓に参った福岡県柳川、吉永小百合と語り合った伊豆の修善寺……旅先での風景を前に、「あの頃」と「いま」が交錯する。JR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」で人気を博した連載などから35編を収録、『深夜特急』の著者が気の向くままに歩き続けた、国内旅エッセイ集。

■感想
コロナ渦なので旅ができないのは、作者にとっては辛いことなのだろう。旅を通して過去の回想や、出会った人々との交流を描いている。16歳のころに東北を電車で一人旅をした。その際に、同じボックス席に座った強面の人からアンパンをもらったり、隣のおばあさんからミカンをもらったりもする。

時代の違いもあるのだろうが、一人旅というのは出会いも重要である。作者は夜行で移動したことを後悔したりもする。その時の景色をまったく見ることができなかったということらしい。

「蝉のレスキュー」は旅というよりも思い出のエッセイだ。日常で死にかけた蝉を囲む少年たちと出会う。そこで少年たちに蝉を掴んで空に投げて見せる。すると、蝉は元気に飛び立つ。なぜ飛べるのかは不明だが、死にかけた蝉も最後の命の炎を燃やすように空に羽ばたくことができるのだろう。

少年たちからすると蝉を掴むのも躊躇してしまう。死んだと思った蝉が急に鳴きだすのはよくあることだが…。作者の少年時代に蝉を捕獲し続けたことの贖罪の意味もあるようだ。

作者が日光に行ったことがないというのも意外だ。関東に住む人にとっては日光は修学旅行の場所に選ばれることの多い観光地だ。なぜかタイミングを逃したことで作者は日光に行ったことがないらしい。

日光への旅や会津、磐梯山や五色沼など、自分も旅行したことのある場所に作者も訪れる。基本は一人旅ではあるが、作者の旅へのスタンスがわかる作品だ。また、驚きの交友関係についても描かれている。井上陽水と気軽にカフェでお茶する仲というのも驚きだ。

ライトで大人な旅エッセイ集だ。



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