太陽を曳く馬 下 


 2023.1.22      ひたすら宗教の話が続く 【太陽を曳く馬 下】

                     
太陽を曳く馬(下) [ 高村薫 ]
評価:2
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■ヒトコト感想
宗教的色合いの強い作品だ。上巻は殺人を犯した者が、殺意はあったのかが焦点となっていた。そこから僧侶の末永がトラックに轢かれ死亡する事件が発生する。それらについて、なんらか新しいミステリーの要素があるものと思っていたのだが…。下巻でも特に新しい要素はない。ミステリー作品ではない。

作者の宗教観というか、宗教について学んだことや自分の考えを作中の人物を通してアピールしているように感じられた。正直、読んでいて意味がわからないというのが本音だ。末永が元オウム信者だったということや、ひとり悟りの境地へたどり着ていただとか。それら細かな要素はあるのだが、一環して宗教の話に終始している。興味がない人にとっては辛いだろう。

■ストーリー
死刑囚と死者の沈黙が生者たちを駆り立てる。僧侶たちに仏の声は聞こえたか。彰之に生命の声は聞こえたか。そして、合田雄一郎は立ちすくむ。―人はなぜ問い、なぜ信じるのか。福澤一族百年の物語、終幕へ。

■感想
上巻で期待したような流れとはならない。何かしら殺意をもって殺人を犯したのか。その死刑囚の父親である僧侶は部下たちに何を説いていたのか。末永がサンガを飛び出し事故死したのは、意図的にしくまれたものだったのか。

ミステリーを期待して読むと、かなりがっかりすることだろう。僧侶たちはどのような宗教観で日々修行をしているのか。強烈なインパクトはないのだが、終始宗教の話が続いている。まさに禅問答のような形で雄一郎が僧侶たちと会話を続けている。

末永が元オウム信者ということが、何かサンガ内部で影響があったのか。イジメのようなものが発生し、その結果として末永が自殺したのか。刑事である雄一郎が捜査するにしては、事件性は低い。最初からそれがわかっていながらも、無理やり事件を作り出そうとしているような感じがした。

僧侶たちの中でもライバル意識があるのだろう。座禅を組みひとり無の境地に達したものについては、あこがれの気持ちをもって眺めるということがあるのだろう。

彰之はどのような心境で日々を過ごしていたのか。息子が二人殺し死刑囚となる。息子にあてた手紙というのがラストでツラツラと描かれている。宗教を超えた何かというか、宗教の感覚を理解しないと物語としては難しいだろう。

末永がてんかんの持病をもっている状態であり、それをみんなは理解していながら放置する。周りの僧侶たちが意図的に末永を最悪な方向へと誘導したのか。それとも末永がすすんでそうしたのか。ある意味、緩い自殺であり、ゆるい殺人なのだろう。

ラストでは雄一郎がまるで自問自答するようにひたすら会話を続ける。このあたりは宗教をよく勉強していないと理解できないだろう。自分の場合は、この手のマニアックなうんちくは「京極夏彦」作品で慣れたものとばかり思っていたのだが…。

後半は読んでいて辛くなってきた。意味がわからないというのもあるが、登場人物たちの心境がまったく理解できないからだ。それなりにインパクトがあるのは間違いない。本作は内容があまりにマニアックなので、もしかしたら文庫化されないのかもしれない。

宗教に理解がある人は読むと良いだろう。



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