太陽を曳く馬 上 


 2022.12.27      それぞれの宗教観が語られる 【太陽を曳く馬 上】

                     
太陽を曳く馬(上) [ 高村薫 ]
評価:2.5
高村薫おすすめランキング
■ヒトコト感想
宗教観というか、かなり特殊な作品だ。合田雄一郎シリーズではあるのだが、ミステリの要素は上巻では弱い。本作の前半では福澤秋道が金槌で同居人と隣人の頭を殴打し殺害する。この事件に関して裁判で秋道に殺意があったのかが争われる。今でいうところの秋道は発達障害なのだろう。画家として、ひとつのことに集中することには長けているが、他人の気持ちがわからない。

雑音がうるさいと音を出している元である頭を殴打しただけ。殺す意思があったのかは不明。そこから、秋道の父である福澤彰之が僧侶をしており、そこでひとりの僧侶が謎の死を遂げる。この僧侶の死がミステリーなのかもしれないが、人の宗教観というか僧侶の修行への思いというのがつらつらと語られている。

■ストーリー
福澤彰之の息子・秋道は画家になり、赤い色面一つに行き着いて人を殺した。一方、一人の僧侶が謎の死を遂げ、合田雄一郎は21世紀の理由なき生死の淵に立つ。―人はなぜ描き、なぜ殺すのか。9.11の夜、合田雄一郎の彷徨が始まる。

■感想
合田雄一郎のシリーズではあるが、上巻の段階ではまだミステリアスな雰囲気は弱い。どちらかというと、僧侶だとか宗教に関する考え方のうんちくがひたすら描かれているというような感じだ。発達障害をもつと思われる秋道が殺人事件を起こし裁判となる。

上巻ではこの裁判の模様がメインとなる。秋道に殺意があったのかなかったのか。殺人を犯したのは秋道で間違いないのだが、発達障害というのもあり、殺す意図がないとなると量刑にも大きく影響するのだろう。後半の僧侶末永の不可解な事故とどのような関係があるのかは、現段階では不明だ。

僧侶末永の死については、無理やりミステリアスにしているような気がした。てんかんの症状があり、徘徊したことによる事故死。事故死であることは間違いない。てんかんの病気をもっていると知りながら寺院の者たちが末永をあえて放置したことで病気により事故が起きたという流れのようだが…。

僧侶に事情聴取を続けることで、それぞれの宗教観が語られる。一般人では理解できない部分もあるのだろう。オウムの問題を絡めながら、一般の僧侶がどのような考えで寺で修行をするかが語られている。

9.11があり、オウムの事件がある。宗教的な考え方は、ある意味何かあると危険視される時期の作品なのだろう。病気をもっていると知りながら、サポートする者が末永を放置したことで事故が発生する。以前にも同じような事故が起きていたことから、何か意図的なものを感じずにはいられない。

ただ、それを事件化するのは成立するのだろうか。過失としても、その過失が死亡事故につながると確実に思えないため事件化するのは難しいのだろう。

下巻でどのような展開になるのか楽しみだ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp