新リア王 上 


 2023.3.2      濃密な選挙戦の描写 【新リア王 上】

                     
新リア王(上) /高村薫
評価:3
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■ヒトコト感想
「晴子情歌」「太陽を曳く馬」で登場した彰之の物語。青森の政治家である福澤栄と妾の子である彰之の会話からスタートする。福澤の秘書が自殺し、それにまつわる思い出が語られる。福澤王国の複雑さと、それにまつわる家族の関係が描かれている。政治家・福澤栄と、彰之がそれぞれの視点で福澤王国の選挙の模様を語る。

人間関係の複雑さと選挙での利害関係などが細かく語られている。強固な地盤をもち大臣までも経験したベテラン議員であっても、自分の選挙と息子が同時に出馬することの困難さ。そして、妻たちを含めた女たちの関係などが濃密に描かれている。選挙期間中の人々の興奮というのが強烈に伝わってくる。身内でありながら、どこか別の星にいるような彰之が特徴的だ。

■ストーリー
保守王国の崩壊を予見した壮大な政治小説、3年の歳月をかけてここに誕生!父と子。その間に立ちはだかる壁はかくも高く険しいものなのか――。近代日本の「終わりの始まり」が露見した永田町と、周回遅れで核がらみの地域振興に手を出した青森。政治一家・福澤王国の内部で起こった造反劇は、雪降りしきる最果ての庵で、父から息子へと静かに、しかし決然と語り出される。『晴子情歌』に続く大作長編小説。

■感想
政治の世界の激しい人間関係が印象的な作品だ。青森を地盤とし、自身は大臣にまで出世し息子を新たに出馬させようとする福澤王国。膨大な関係者たちが事細かに説明されている。序盤では家族関係が秘書を含めどのような関係かははっきりしないが、次第に明確になっていく。

長男の優が出馬する。次男は、三男は、また姉はなど、それぞれの立場で選挙へのかかわり方が描かれている。誰もが選挙に前向きであるわけではないが、夫が出馬するとなれば妻は自然と議員の妻へと変貌していく。

彰之目線での選挙活動も語られている。「晴子情歌」では彰之の内面がこれでもかと語られていたのだが、その後の彰之がどのような経緯で仏門に入ったのかが語られる。東大を卒業し漁業に参加し、最後には仏門に入り、ふらりと福澤栄の選挙中に現れる。

それぞれ思惑があり、跡取りは誰だとか、会社の跡継ぎは、というような流れとなる。俗世間から離れた状態である彰之ではあるのだが、周りの扱いがどうなるのかは本人は預かり知らないことになっている。

秘書が自殺し汚職疑惑などが持ち上がる。王国が衰退するのはスキャンダルだけだ。福澤王国がどのようになるのかは上巻では描かれていない。なぜ、いまさら福澤王国の王が、仏門に入った彰之を訪ねてきたのか。世間のしがらみから逃れたいためなのか。

没落した王のもとにはどのような人々が残るのか。上巻では過去の最高に幸せで力のあった福澤王国が思い出として語られている。そこから没落した際に、王国のメンバーたちはどのような結末を迎えるのか。

長大な作品の結末が気になるところだ。



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