晴子情歌 上 


 2021.12.7      母親が息子に長文の手紙を送る 【晴子情歌 上】

                     
晴子情歌(上巻) (新潮文庫) [ 高村薫 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
洋上で仕事をする息子と母親の物語。母親が息子に向けて宛てた手紙と、息子の現在の状況が描かれている。母親である晴子の人生物語といっても良いだろう。息子に対して送る手紙としては、母親が自分の幼少期からの成長していく過程を送るのはかなり特殊だ。そもそも晴子から息子である彰之に対してなぜこのような長文の手紙を書くにいたったのかの説明はない。

そのため、晴子の人生と彰之の人生をそれぞれ読まされているような気分となる。晴子から見た母親と父親がどのような状況だったのか。少女時代の晴子が見た母親と父親の関係。そして、母親が早く死に、ニシン漁での親子での仕事など、非常に濃密で細かな物語となっている。

■ストーリー
遙かな洋上にいる息子彰之へ届けられた母からの長大な手紙。そこには彼の知らぬ、瑞々しい少女が息づいていた。本郷の下宿屋に生まれ、数奇な縁により青森で三百年続く政と商の家に嫁いだ晴子の人生は、近代日本の歩みそのものであり、彰之の祖父の文弱な純粋さと旧家の淫蕩な血を相剋させながらの生もまた、余人にはない色彩を帯びている。本邦に並ぶものなき、圧倒的な物語世界。

■感想
序盤から晴子の人生が、息子に対する手紙の中で語られている。晴子の母親がどのような人物で、父親がどのような人物だったのか。特に印象的なのは、母親が死んだ後に、父親とふたりで鰊漁に参加する場面だ。ひたすら鰊漁の過酷さとどのような状況なのかが語られている。

教師としてして仕事をしていた父親が、鰊漁を行う。今で言う学者が肉体労働をするようなものなのだろう。無口な父親の、どことなく頼りない雰囲気が少女である晴子の思いから伝わってくる。そのことを詳細に息子に手紙で伝えるのは特殊な状況だ。

彰之は偶然にも母親が鰊漁の手紙を書いている時期に、洋上で漁をしている。そこでの特殊な人間関係と、彰之を訪ねてくる謎の女について語られている。上巻の段階では、その謎の女については不明のまま進んでいる。洋上で黙々と仕事をする彰之。

父親の親類の家を訪ね、そこで母親が若いころは美しく、現在でも思いを伝える相手がいるような証言がある。その証言を裏付けるように晴子の手紙の中で、少女の晴子が憧れた人物が登場してくる。

母親の思い人が今も母親と手紙のやりとりをしていると知るのは息子としては複雑な心境なのだろう。洋上での仕事に従事することで余計な雑音をすべてシャットアウトする効果があるのだろうか。晴子の手紙は時代を経て晴子自身が独立する直前まで描かれている。

それまで一緒に生活した兄弟や親類の話などが続いていく。彰之の父親は晴子の手紙の中には登場してこない。恐らくは彰之とは血のつながりのない父親なのだろう。彰之の出自についても謎であり、下巻でそのあたりが明らかになるのだろう。

母の人生を知ることで息子は自分の出自を理解するのだろう。



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