2023.5.11 福澤王国の崩壊の兆し 【新リア王 下】
新リア王(下) [ 高村薫 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
政治家一家の福澤王国の内部で起きた出来事を上巻から引き続いて描いている。福澤王国の金庫番である英世が自殺するまでを描いている。それまでに何が起きたのか。自分の後継者として見込んでいた長男の優が裏切り知事選に出馬する。それまでに福澤王国の王としてすべてに気を配っていたはずが、見逃しがあった。そして、金庫版である英世が王の知らない間に蓄財しており、それが検察につかまれ、英世が自殺に追い込まれる。
息子であり出家した彰之が初子と出会ったなれそめと、どのようにして孫である秋道を引き取ったのかも描かれている。王国の衰退につながる流れというのは微かに感じていたのだろう。出家し自由を謳歌している彰之へのあこがれのようなものを王から感じた。
■ストーリー
保守王国の崩壊を予見した壮大な政治小説、3年の歳月をかけてここに誕生!父と子。その間に立ちはだかる壁はかくも高く険しいものなのか――。近代日本の「終わりの始まり」が露見した永田町と、周回遅れで核がらみの地域振興に手を出した青森。政治一家・福澤王国の内部で起こった造反劇は、雪降りしきる最果ての庵で、父から息子へと静かに、しかし決然と語り出される。『晴子情歌』に続く大作長編小説。
■感想
政治家の王国の内部で何が起こっていたのか。基本は過去を回想する形で王と彰之が会話をする。長男である優が政治家として立候補する。王国の将来は順風満帆かと思われたのだが…。何かほころびが起きるときは気づかずに崩壊していくのだろう。
兄弟でのちょっとした嫉妬。そして、後継者である優が、王の意に反して巨大な竹下派閥に入り込んでいた。それに気づいた王のショックはすさまじいのだろう。そして、読者の印象としてはすべては巨大な権力者による裏で決定されているという感覚だ。
彰之が初子と結婚した経緯が描かれている。過去の男女の関係で生まれ落ちた秋道。秋道の行動というのはのちの「太陽を曳く馬」で登場してくる。彰之としては知らない間に父親になっており、秋道というお荷物をかかえることになる。
彰之と初子の関係はとても幸せな夫婦関係とは思えない。寺での生活に初子がなじめずにいたというのも大きいのだろう。彰之としても普通の家庭をもつことを想定していなかったのだろう。想定外のことがおきたことで彰之の人生は変化していく。
王国の崩壊は金庫番が検察へマークされたことが大きいのだろう。王としては金庫番が何をしていたかを把握はしきれない。検察に逮捕されたとしても、政治家自身には何も心当たりはない。それは当然だろう。政治家の指示のもと秘書が何か悪さをしたと思われがちだが…。
実際には秘書の方が政治家の権力を利用し蓄財などに力を注ぐパターンなのだろう。英世がなぜそんな蓄財をしたのかは最後まで解明されない。そして自殺にまで追い込まれた理由も描かれていない。
政治家王国の強烈な関係性が描かれている。
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