兵諫 


 2022.3.19      西安事件と二・二六事件はリンクしている? 【兵諫】

                     
兵諫 [ 浅田次郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
「蒼穹の昴」シリーズ。中国の歴史が濃密に描かれている。日本で二・二六事件が起きた同じころ、中国でも張学良のクーデターが発生していた。歴史的事実を元に作者の独特な感性で何が起きていたかを想像力豊かに描く。日本の参謀たちや、諜報員、そして張学良の参謀などが会話の中で何が起きていたのかが判明してくる。そこまで歴史に詳しいわけではないが、このシリーズを読むことで中国と日本の関係がどのようなものであったかがわかってきた。

特に張学良と蒋介石の関係や、その当時の満州や石原莞爾の存在など、かなり興味深い描かれ方をしている。西安事件での軍法会議では、張学良がこれでもかと良い人物として描かれており、歴史的事実ではわからないことを描いている。

■ストーリー
日本で二・二六事件が起きた1936年。中国の古都、西安近郊で、国民政府最高指導者、蒋介石に張学良の軍が叛旗を翻すクーデターが発生。蒋介石の命は絶望視され、日米の記者たちは特ダネを求め、真相に迫ろうとする。日本では陸軍参謀本部という秘密の匣の中で石原莞爾が情報を操っており、中国では西安事件の軍事法廷で、張学良は首謀者ではないとする証言がなされた。日本と中国の運命を変えた2つの兵乱にはいかなるつながりがあったのか。

■感想
「天子蒙塵」から続く物語。中国の歴史的な出来事をベースとしてその当時、日本で何が起きていたかをドラマチックに描いている。歴史にそれほど詳しくなくとも、本作を読むことで逆に歴史に詳しくなる。張学良がクーデターを起こしたのだが、最終的には蒋介石の暗殺には失敗している。

その後の抗日政策に繋がるということで、作者が何が起きていたかを想像して物語化している。日本から侵略を受けていた中国が国内よりも抗日に舵を切るにいたったのは、この事件がきっかけなのは間違いないだろう。

張学良がどのような思いで事件を起こしたのか。張学良の周りの側近が勝手に事件を起こしたということになっている。ただ、その目的は達成されている。事件が起きた時、日本ではどのような動きがあったのか。ここでは、もう一人の主人公とも言うべき石原莞爾がその尋常ではない能力を示している。

中国内部にいる諜報部員からの連絡で、いち早く動きだす。すべてはその後の流れに繋がっているのだろう。中国の事件と日本の事件が密にリンクしているというのは面白い。

シリーズとして読み続けると自然と中国と日本の歴史について詳しくなる。その時代ごとに主人公が代わっていく。本作では張学良とその周辺、そして日本を憂う若手たちだ。二・二六事件が起きた際に、影響を受けた若手日本兵士が、どのような行動を起こすのか。

西安事件が起きた際には、その内部を想像し、日本としてどのような方向へ進むのかが議論されている。歴史の裏に隠れた密談なども作者の想像力で描かれている。ドラマチックな展開になるので、歴史の教科書を読むよりも理解は早いだろう。

このシリーズはこのまま続いていくのだろう。



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