天子蒙塵 第4巻 


 2019.2.13      日本と中国の歴史がリンクする 【天子蒙塵 第4巻】

                     
天子蒙塵 第4巻/浅田次郎
評価:3
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■ヒトコト感想
3巻から引き続き、様々な者たちの目線で時代の変化が語られている。ラストエンペラー溥儀は皇帝への道を目指す。不倫していた女を逮捕しなかった将校は、あろうことかその女と脱走してしまう。張学良は暗殺者に狙われる。中国内部の状況だけでなく、平行するように日本の石原莞爾が関東軍内部での地位を高めつつある。

シリーズとして日中戦争突入前に、日本と中国それぞれの思惑が交錯する。「蒼穹の昴」から続くシリーズのため、シリーズを通して読んでいないと楽しめない記述もある。シリーズがすすむにつれ、より日本側の存在感が強くなる。満州をめぐる争いや、満州で生きる道を見出そうとする少年たちなど、混沌とする時代の中で力強く生きる者たちの物語だ。

■ストーリー
満洲でラストエンペラー・溥儀が皇帝に復位しようとしている。そんななか、新京憲兵隊将校が女をさらって脱走する事件が発生。欧州から帰還した張学良は、上海に襲い来る刺客たちを返り討ちにしていた。一方、日本では東亜連盟を構想する石原莞爾が関東軍内で存在感を増しつつあり、日中戦争突入を前に、日本と中国の思惑が複雑に絡み合う。

満洲に生きる道を見いだそうとする正太と修の運命は。長い漂泊の末、二人の天子は再び歴史の表舞台へと飛び出してゆく。

■感想
第3巻からの密接につながる物語。3巻で、様々な登場人物がそれぞれの思惑で行動していた。歴史的な出来事は変わらない。ただ、時代的には大きく変化していく。満州ではラストエンペラーである溥儀が自分の存在意義を考え、皇帝に復位しようとする。

歴史的事実はあるとして、西太后から指名され皇帝となった男が、その後には連合国軍に捕らえられ抑留された後に、文化大革命のさなかに一市民として寂しく死んでいく。その大本が本差で語られているような気がした。

日中戦争に突入する前に、日本内部でも様々な出来事が起こる。東亜連盟を構想する石原が、満鉄爆破テロをにおわすような話をし、そこから関東軍内部で力をつけていく。このシリーズで日本は重要な役割を示してきたのだが、ここへきて石原が強烈なインパクトを示している。

シリーズを通して読んでいなければ楽しめない記述もある。ただ、日本が中国を侵略し始めるきっかけとしての流れはよくわかる。張学良が暗殺されようとしたり、歴史的な事実に基づいているだけに、物語には強烈な面白さがある。

満州に生きる道を見出そうとした少年たちは、必死に満州で一旗揚げようとあがく。不倫した女は、上官の命令に逆らってでも女を逮捕しなかった将校と逃亡してしまう。これら作者が創作した部分と歴史的事実が合わさって物語としての面白さとなっている。

おそらくシリーズとしてはまだまだ続くのだろう。日中戦争に突入し、ラストエンペラーが一市民になり下がるまでも描かれることだろう。歴史教科書を読むよりも勉強になるのは確かだが、余計な創作部分と人物の心情を読むことで、客観的事実だけでない人それぞれ印象をもつだろう。

中国と日本の歴史をリンクさせることができる作品だ。



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