天子蒙塵 第3巻 


 2018.12.18      何かが起きる前夜のように 【天子蒙塵 第3巻】

                     
天子蒙塵 第三巻 [ 浅田 次郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
3巻目となったが、ラストへ向けて新たな登場人物たちが多数でてくる。歴史的事実にもとづき、作者の想像が入りながら物語はすすんでいく。自分はこのあたりの歴史に詳しくないので、どこまでが歴史的な真実かはわからない。満州国を舞台に関東軍やラストエンペラーの溥儀、そして張学良までそれぞれが自分の思惑で動く。

特に張学良のヨーロッパ旅行では、今までのシリーズを読んでおく必要があるだろう。連面と続くシリーズを駆け足で回想しているような感じだ。時代は日中戦争へと向かうさなか、満州の利権や傀儡としての皇帝の存在など、様々な駆け引きの中でどのような物語が待っているのか。ラストへ向かう前の壮大な助走といった感じだ。

■ストーリー
新天地から始まる果てしなき道へ。「馬賊の歌」も高らかに、日本を飛び出した少年二人、妙齢の美男美女は駆け落ちか。満洲の怪人・甘粕正彦、男装の麗人・川島芳子も加わり、新たな登場人物たちが、それぞれの運命を切り拓くため走り出す。満洲ではラストエンペラー・溥儀が執政として迎えられ、張学良は妻子を連れヨーロッパへの長い旅に出ていた。日中戦争以前に何が起こっていたのか?

■感想
第1巻では中華皇帝の離婚とクーデターにより皇帝が追い出された話が描かれていた。第2巻では追い出された皇帝溥儀が、満州国の地で傀儡の皇帝を演じさせられる部分が描かれていた。本作ではその満州国を舞台に、様々な人々がそれぞれの思惑で動き、何かが起きる前夜のような物語となっている。

日本を飛び出してきた少年二人の物語はとりわけ印象深い。末は大臣も狙えるような少年が、満州にて俳優として活躍しようとしている。満州についてはほとんど知識がなかったが、本作を読むことでなんとなく理解ができた。

無抵抗将軍の張学良は、妻子を連れてヨーロッパ旅行へと出発していた。近代的なヨーロッパに触れるにつれ、自分の故郷について思いをはせる。それと共に満州で傀儡の皇帝をやらされている溥儀についても思い出す。張作霖暗殺が本当に日本の仕業だったのか。

国をまとめ上げる龍玉を手に入れてしまったがために、その器ではないことで張作霖は事故死したのか。歴史的事実と空想が相まって、巧みな物語の構成となっている。歴史に拒否感がある人は、本シリーズを読むと日本と中国の関係がよくわかるだろう。

それぞれの運命を切り開くために走り出す人々。日本側の立場の者や、まるっきり中立な者、そして中国側の者。それぞれの見方によって歴史はどのようにでも描くことができるのだろう。現代の日本のように、他国に対して及び腰になることなく、自分たちを強く主張する日本。

それは危ういばかりの強引さで、中国側からしたらその強引さは恐怖でしかない。満州を作り上げ、無理やり溥儀を皇帝に据えるという暴挙は、のちの世界大戦にもつながることなのだろう。

歴史を学ぶにはうってつけの作品だ。



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