冷血 上 


 2022.2.23      本家に負けない臨場感と理不尽さ 【冷血 上】

                     
冷血 上/ 高村薫
評価:3.5
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■ヒトコト感想
映画「カポーティ」を見て原作「冷血」に興味をもった。日本版としての冷血は、本家と同じように濃密な人間模様が描かれている。事件が発生する直前の被害者家族たちの幸せな生活。どこにでもあり、少し裕福な家族。ディズニーシーへ家族旅行する直前というのがまた悲しみを増幅させる。

一家皆殺しというのは特に幼い姉弟に対しては悲しみしかない。それら事件を起こした二人の男が、なぜそこまで残酷な事件を起こしたのかは上巻ではわからない。ただ、事件に至る前には、無計画で何も考えず、ただ行き当たりばったりで行動している印象が強い。それらを上巻の中盤から合田らが捜査をする。この刑事パートに入ってからは、とてつもない引きの強さがある。ページをめくる手を止められない作品だ。

■ストーリー
クリスマスイヴの朝、午前九時。歯科医一家殺害の第一報。警視庁捜査一課の合田雄一郎は、北区の現場に臨場する。容疑者として浮上してきたのは、井上克美と戸田吉生。彼らは一体何者なのか。その関係性とは?高梨亨、優子、歩、渉―なぜ、罪なき四人は生を奪われなければならなかったのか。社会の暗渠を流れる中で軌跡を交え、罪を重ねた男ふたり。合田は新たなる荒野に足を踏み入れる。

■感想
少し裕福だがごく普通の家族が一家皆殺しとなる。本家は実際に起こった事件をベースに描かれている。本作はフィクションなのだが、本家に負けない濃密な作品となっている。特に犯人の内面が本家に近い。明確な目的があり事件を起こしたわけではない。ただ、そうなるべくしてなっただけ。

犯人の二人には被害者家族のことを考える頭はなかったのだろうか。犯人目線でのパートがあり、そこでのあまりにも無計画で無軌道な考え方については怒りすら湧いてくる。被害者家族がディズニーシーへの旅行直前というのもまた悲しみが強くなる。

突如として事件発生後になり、合田たち警察のパートとなる。そこで子供たちも眠った状態で鈍器で撲殺されたとわかる。上巻では事件の描写はなにひとつない。事件後を合田たちが想定しながら推理するしかない。その瞬間、何が起こったのか。

あの幸せに満ちていた家族。特にディズニーシーへの旅行を楽しみにしていた子供たちが、その瞬間何を思ったのか。犯人たちが大した目的もない行動だというのが予想できるだけにより強い怒りと悲しみが湧いてくるのは間違いない。

刑事パートはすさまじい臨場感だ。警察小説としては「横山秀夫」がすばらしいという印象があるが、本作も負けていない。警察内部での権力争い。事件解決のために何をすべきか。そして、被害者家族たちの状況を想像しながら少ない手がかりをたよりに犯人を追いかけ続ける。

下巻では、検事なども関わってくるのだろうが…。刑事たちの事件に対する熱量と、幹部たちの保身なども描かれている。無軌道な犯人たちは手がかりを大量に残しているが、なぜか捕まらない。そして、捕まる瞬間はあっけない。

下巻が楽しみで仕方がない。



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