追跡者の血統 大沢在昌


 2015.7.27      広げた巨大な風呂敷を畳めるか 【追跡者の血統】

                     
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■ヒトコト感想

感傷の街角」「漂白の街角」の佐久間公シリーズ。前二作が短編であったが、本作は長編ということで、より掘り下げた描かれ方をしている。公の親友であり六本木の帝王でもある沢辺が何者かに拉致され、それを公が調査する過程で、とんでもなく複雑な事態に巻き込まれていると公は気づき始める。

長編でひとりの人物を追いかけるというのは、濃密に描かれるため強く印象に残る。が、短編のバラエティに富んだ失踪人たちそれぞれの事情のような面白さはない。対象者が沢辺ということで、シリーズを読み続けているファンにはうれしいオマケも多々ある。それでも、事件の複雑さほど、濃密な面白さを感じることはなかった。なんとなくだが、本シリーズは短編でいろいろな失踪者を探す方が向いているような気がした。

■ストーリー

広尾の豪華マンションに住み、女と酒とギャンブルとスポーツでその限りない時間を費す六本木の帝王・沢辺が、突如姿を消した。失踪人調査のプロで、長年の悪友佐久間公は、彼の妹からの依頼を受け調査を開始した。“沢辺にはこの街から消える理由など何もないはずだ…”失踪の直前まで行動を伴にしていた公は、彼の不可解な行動に疑問を持ちつつプロのプライドをかけて解明を急ぐが…!?

■感想
それぞれ事情を抱えた失踪者を探すのが公の役目だ。この失踪者たちの様々な事情がこのシリーズの面白さの要因のひとつだった。本作では長編ということで、失踪者である沢辺の身辺の調査がメインとなる。公と共に、メインキャラとして活躍してきた沢辺が探される立場となる。

今まで知りえない沢辺の新たな秘密というのは気になる部分だ。さらには、沢辺がヤクザ関係と繋がりがあるにもかかわらず、あっさりと拉致し続けられる組織とはどのような存在なのか。事件の巨大さと複雑さが物語を面白くしている。

公はただの調査人なので、暴力的な相手には太刀打ちできない。それを補完するのが沢辺の役目だったのだが、沢辺自身が対象者となると新たな相棒が必要となる。ただ、今回は沢辺の妹や外人を束ねるボスなど、様々な人物たちが公と時には対立し仲間にもなる。

さらには探偵事務所の上司の過去や、公の父親のことまで、シリーズの謎に包まれていた部分が次第に明らかとなってくる。事件が巨大で複雑化すればするほど、広げた大きな風呂敷をたたむのは大変だ。お決まりどおり、本作も綺麗にたためているとは言えない流れとなっている。

シリーズとして今後どうなっていくのか。沢辺の状況を考えると、今までのようにコンビを組むわけにはいかないだろう。沢辺救出のために様々な犠牲をはらい、組織としての危険も冒している。CIAやKGBや日本の警察組織と対等に存在するような謎の組織に対して、公たちが立ち向かうのは端から無謀なことのように思えてくる。

物語を終わらすためには、組織の格差などは無視して、公たちに沢辺を救出させる必要があったのだろう。短編とは違った面白さがあるのは確かだが、失踪者の個性で読者を引き付ける方が正しいような気がしてならない。

今後、シリーズに沢辺がどのように関わっていくのか、気になるところだ。



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