悲嘆の門 下 宮部みゆき


 2015.11.27      きな臭い流れからハッピーエンドへ 【悲嘆の門 下】

                     
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■ヒトコト感想

上巻の終わりで発生した衝撃的な事件。孝太郎のバイト先の社長が連続殺人事件の犠牲者となる。孝太郎の激しい怒りはガラとの取引により、言葉を見る力を得る。冒頭から、明らかに孝太郎がおかしな方向へ進んでいきそうな雰囲気が漂っている。怒りから暴走へ、そして、個人的な私刑へと繋がる。このパターンであれば、幸せな結末はないように思えてしまう。

暴走する孝太郎の行動は、ガラ以外にもあらゆる人物から危険視されている。個人的な怒りからの制裁というのは本来ではない。作中で忠告されながらも、怒りから暴走を止めることができない。ラストはガラと同じように非人間的な見た目となった孝太郎が苦悩するのかと思いきや…。意外にもハッピーエンドとなっている。

■ストーリー

怖いよ。怪物がくる! 日本を縦断し、死体を切り取る戦慄の殺人事件発生。ネット上の噂を追う大学一年生・孝太郎と、退職した刑事・都築の前に、“それ"が姿を現した! その後、孝太郎のバイト先の社長が次の犠牲者となる。ガラから新たな能力を得た孝太郎は独自の調査で犯人を見つけだすのだが…。

■感想
作者のこのシリーズは、最後にはバッドエンド的なものになるような印象がある。本作でも、上巻での衝撃的事件から孝太郎が暴走し、バッドエンドへまっしぐらかと中盤までは思っていた。ちょっとしたきっかけから殺人へと安易に手を染める殺人者たち。その動機を聞いた瞬間の孝太郎の怒りはよくわかる。

そして、怒りに我を忘れ私刑してしまう気持ちもわかる。が、都築にたしなめられたように、私刑することには何の意味もない。社会的制裁を与えてこそ意味がある。ただ、怒りを晴らすのは私刑が一番の近道なのは間違いない。

連続殺人事件の詳細が明らかとなる。ネット社会の弊害により、連続殺人に見えていたというオチだ。個別の事件の陰惨さは強烈だ。ただ、それらの事件を都築と孝太郎が解決することで、すっきりとした気持ちとなる。孝太郎がガラの力を借りて私刑を行うことが、孝太郎自身の変化へと繋がっていく。

人間の心を失っていく孝太郎が、ある事件をきっかけとして我を忘れてしまう。流れ的には想定できる展開だ。暴走する孝太郎を止めることは誰にもできない。そして、結末は…。「英雄の書」的なバッドエンドへまっしぐらかと思えてしまう流れだ。

物語はラストに救いのある展開となる。非人間へと変貌を遂げた孝太郎が、元の状態に戻った理由は…。なんとも都合が良いというか、ラストの小難しいちょっとファンタジーが入った説明というか、ゲーム世代には十分理解できることだろう。無名の地で一生、無として過ごすことになるのか、それとも…。

ガラとの出会いが孝太郎を大きく変えたのは確かだが、出会えたことで救えた命もあるということだろう。作者のこの手の作品にしては、珍しくハッピーエンドとなっているので、読後感は良い。

ラストの流れをどう感じるかがポイントかもしれない。



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