悲嘆の門 上 宮部みゆき


 2015.10.19      ファンタジーと現実のはざま 【悲嘆の門 上】

                     
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■ヒトコト感想

英雄の書」の世界観を引き継いだ物語。現実的な事件の調査から始まり、ネットでのイジメや連続殺人事件、そして、ファンタジーあふれる世界。中盤まではファンタジーの要素がなく、現実的な物語のように思えた。連続殺人犯の正体を探るため、サイバーパトロールの会社でバイトする幸太郎は、ネット上で情報を収集する。

さらに、近所のおばさんから娘が学校裏サイトでイジメられているということを聞き、それも調査する。現実的な世界観の中に、突如としてファンタジーの要素が紛れ込むのは、元刑事の都築が動くガーゴイル像を調査し始めてからだ。中盤での大きな流れの変化と、終盤での衝撃的事件。否が応でも下巻が気になってしまう。

■ストーリー

ネットに溢れる殺人者の噂を追う大学一年生・孝太郎。“動くガーゴイル像”の謎に憑かれる元刑事・都築。人の心に渇望が満ちる時、姿を現すものは?

■感想
サイバーパトロールとしてバイトする幸太郎の元に、近所のおばさんから学校裏サイトのイジメについて相談される。多様化するイジメの中で、学校裏サイトは非常にやっかいだ。その部分を作者の視点で描かれている。

なんらかの不幸な状況や心に闇を持つ者の行動がポイントとなるのは、「英雄の書」と同じ流れだ。人の体の一部を切断する連続殺人事件の犯人にしても、何かしら心の奥底に潜む闇について、関係性が描かれることだろう。

物語の中盤、突如としてファンタジーあふれる展開となる。幸太郎の同僚として連続殺人事件を調査していた森本が突然行方不明となる。幸太郎が行き着いた先は、動くガーゴイル像がある場所だった。そこで幸太郎が眼にしたものは…。

現実的な世界の話から、唐突にファンタジーの世界に入り込まれると、読者は若干混乱することだろう。最初から「英雄の書」の流れを汲んでいると分かればまったく問題ないのだが…。かなり混乱する場面であることは間違いない。

ファンタジーの世界観の中で、連続殺人犯の恐怖は続いていく。ガーゴイルの姿をした女戦士「ガラ」。人間の渇望を燃料として力を蓄える「ガラ」。現実とファンタジーの境界線が曖昧なため、どこか心の中に、何かの比喩なのでは?という思いが消えることはなかった。

本作のラストでは、サイバーパトロール会社の女社長が連続殺人犯の魔の手にかかり、凄惨な姿をネット上にさらすことになる。犯人に対する怒りの気持ちを高めたまま、「ガラ」との取引をする。否が応でも下巻の展開が気になる流れだ。

ファンタジーと現実のはざまにあるような作品だ。



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