英雄の書 上  


 2011.3.11  中学生が凶行に走るほどの何か 【英雄の書 上】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ブレイブ・ストーリー的なSF。単純なSFではなく、冒険に出るためには差し迫った理由が必要だ。ブレイブ・ストーリーでは斬新な印象を受けたが、本作ではある程度慣れたため、それほど衝撃は受けない。少女に突然降りかかった不幸の元凶を探し出すために、少女は冒険の旅に出る。序盤は小難しい設定の説明が続き、冒険物語という印象はない。しかし、後半からは兄が凶行に走った理由が語られ、そこから一気に物語のテンションが上がっていく。作家は罪深い者のような扱いをされる”無名の地”。そこには常識では測れないルールがあり、英雄という者の存在が怪しさを増している。SFとしてどれだけのめり込むことができるか。今のところ引き込まれる要素は少ないが、下巻に期待すべきだろう。

■ストーリー

お兄ちゃんが人を刺すなんて…。“英雄”に取りつかれた最愛の兄を追って、少女は物語の世界に降り立った。そこで彼女は、すべての物語が生まれ帰する一対の大輪を前に、恐るべき光景を目にしてしまう―。

■感想
少女にふりかかる衝撃的な事件。家族が崩壊し、自分自身にまで不幸が襲い掛かる。冒険物として、旅にでる理由がしっかりと語られている。ただ世界を救うというのではなく、ごく個人的な理由から旅に出て、その結果副産物として世界を救うことになるのだろう。このパターンはブレイブ・ストーリーでもそうだった。ただ、最初のインパクトと事件の深刻度でいえばブレイブ・ストーリーの方がインパクトがあったかもしれない。小学生の少女が従者を従えて旅にでる。必然性はあるのかもしれないが、冒険独特のワクワク感というのを一切感じることができなかった。

物語の中盤までは、”無名の地”の説明がほとんどだ。物語そのものが、なにやら意味ありげに語られ、本が冒険に大きな意味を持っているような流れだ。頭の中で何か物語を作るそのことが、まるで罪悪のように語られる世界。不思議な世界だが、ブレイブ・ストーリーのような少年勇者が別世界で冒険するといった、RPG的世界ではない。現実的ではあるが、青空が存在しない世界というのはどこか陰鬱で、地獄のようなイメージしかない。冒険物語というよりは、苦難の道を進む少女といった感じだろうか。

上巻では、まだSFの世界を堪能できない。剣と魔法の世界ではないのだろう。兄の凶行にイジメが大きく関連していると臭わせ、モンスターペアレントの存在や、生徒を先導して少女の兄を追い込んだ教師の存在など、かなりブラックな物語になりそうな雰囲気はある。すっきりとした結末になるのか、それとも陰鬱なまま終わってしまうのか。ワクワクするような冒険活劇ではない。少なくとも大きな悪意によって、中学生が凶行に走るほどの何かが存在したという物語だ。小難しい前半を我慢して読むと、後半になると一気に苦しい気持ちになることだろう。

この陰鬱な世界が下巻でどのように変わるか楽しみだ。

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