2015.8.18 キッスのシローというふざけたあだ名 【悪人海岸探偵局】
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■ヒトコト感想
ライトなハードボイルド作品。主役の木須志郎がハードボイルド作品にしては女に入れ込みすぎている。シローの一人称で語られており、木須志郎からキッスのシローとあだ名されるなど、非常に安易で軽い感じのキャラクターだ。シローが考えることは地の文として描かれており、雰囲気的には石田衣良の「IWGP」シリーズのような印象を受けた。
私立探偵で女にモテ、喧嘩も強く、警察にも顔が利き、周りから一目置かれる存在。なんでもありなキャラクターであり、必ず登場する「気に入った女の子には~」の部分は、もはやギャグにしか思えなくなる。軽いハードボイルド短編集であり、作者の「無病息災エージェント」に雰囲気は近いかもしれない。
■ストーリー
ギャルとギャングが溢れかえる悪人海岸で、腕っ節と度胸を武器に、私立探偵・木須志郎が大暴れ!「気にいった女の子には熱いオンリップのキッスを、気にいらねえ野郎には固いオングラウンドのキッスを」がモットーで、悪いヤツには滅法強いが、お色気と情にはとことんもろいナイスガイ。はてさて事件は解決するのか…。
■感想
ギャルとギャングとビーチ。私立探偵のシローが難解な依頼をこなす。短編で描かれるそれぞれの事件には、そこまでインパクトはない。シローのキザなセリフと、わかりやすいハードボイルド的展開により、サラリと読める作品となっている。
シローがこなす依頼の中には、巨大組織と対決するものもある。シローは一匹狼として私立探偵の仕事をしてはいるが、警察へコネがあり、シティでは顔が利き、さらには裏稼業を牛耳る者との繋がりもある。何か困ったことが起こると、頼るべきものが多数あるのもシローの強みだ。
シローのキャラの特徴としては、その名前に表れている。木須志郎でキッスのシローなんてのは、恥ずかしくて名乗れない。通り名がそうだとしても、普通は受け入れることができないだろう。事件が起こると、シローを説明する上でまず最初にでてくる言葉が「気にいった女の子には熱いオンリップのキッスを、気にいらねえ野郎には固いオングラウンドのキッスを」なんてことを言う。
このキャラが通用してしまうのがすごい。最初から最後までこのテンションを崩すことなく、ひたすらハードボイルドを気取る。作者にしか描けないキャラだ。
シローの一人称で描かれる短編のため、シローの思考が非常に軽いのが気になってしまう。浅いというか女に対してのみ興味が集中するというのが、シリアスなハードボイルドとは異なる部分だろう。この軽さが良いという人もいると思うが…。
読んでいる間中、真っ先に思い浮かんだのは「IWGP」のマコトだ。主人公が事細かに起きた出来事を説明する。そこに話者の心境が入りこむだけに、読者としては、キャラクターの軽さに違和感を覚えるかもしれない。
軽さはあるが、ハードボイルド入門編としては良いかもしれない。
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