2014.5.23 不思議な空間への入り口 【冥談】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
「幽談」「眩談」と同様のシリーズ。不思議な空間へとり込まれるような気分になる物語ばかりだ。死者の声が聞こえたり、死者の姿が見えたり。記憶の恐怖であったり。子供のころ、ふとしたことをきっかけに恐怖感を呼び起こされるような、そんな気分を思い出した。物語のスタートは普通なのだが、そこで奇妙な現象が起きたとしても、取り乱すことなく普通の日常を過ごす。しかし、最後には…。
恐ろしいまでに突然恐怖の元凶に出会ったような気分になる。ジワジワと感じられるのだが、物語の主人公はあくまで気づかないまま物語が進んでいく。読者はおかしいと気づきながら、決定的な言葉が登場するのを待ちかまえている。恐ろしさを最後まで引っ張る作品ばかりだ。
■ストーリー
庭に咲く艶々とした椿の花とは対照に、暗い座敷に座る小山内君は痩せ細り、土気色の顔をしている。僕は小山内君に頼まれて留守居をすることになった。襖を隔てた隣室に横たわっている、妹の佐弥子さんの死体とともに。しかしいま、僕の目の前に立つ佐弥子さんは、儚いほどに白く、昔と同じ声で語りかけてくる。彼女は本当に死んでいるのだろうか。「庭のある家」をはじめ、計8篇を収録。生と死のあわいをゆく、ほの瞑い旅路。
■感想
「庭のある家」は、得体のしれない恐ろしさがある。留守番を頼まれた男は、その家の妹が十分前に死んだことを知るのだが…。常識が通用しない不思議な世界。最初から奇妙な世界に入り込んでいる。人が首を切られた場合、痛みを感じるのか?という質問をされ答える男。
顔がつぶれる瞬間に、痛みを感じないのか?とも質問される。十分前に死んだ妹のこともそうだが、全体的に別世界に迷い込んだような気分になる。そこでは、人の死が当たり前の世界なのか。奇妙な怖さが押し寄せてくる。
「空地の女」は、恐ろしい。異常な女の心理状態も恐ろしいが、状況も恐ろしい。男と喧嘩した女は家を飛び出したのだが…。女が男への不満を口にしつつ、家を飛び出し、ふと見かけた空地に奇妙な状況が待っている。
女の悪態が、何かこの世のものではないような雰囲気すら感じさせてしまうのはなぜだろうか。今までの短編の雰囲気を引きずっているためだろうか。男に対する怒りを胸に秘めながら、空地でじっと女を見つめる無表情な別の女の存在が恐ろしい。夢に出てきそうな恐怖感だ。
「予感」は、人が住んでいない家は死んでいるという言葉は納得ができる。内容自体も、中古で買い取った家について、人が住むことの重要性を説いている。ここまでは普通なのだが、最後が恐ろしい。家にとって、人は魂と同じ。血や肉があっても魂がなければ人ではない。
家も、建物が存在しても、そこに人が住んでいなければ廃屋も同じ。中古の家を買った谷崎さんのもっともなうんちくを聞きながら、その真実を知ると…。何かあるぞと思いつつも、やはり恐ろしいことに変わりはない。
恐ろしい下地が出来上がった状態で読む短編は、なんでもないことすら、恐ろしく感じてしまう。
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