眩談  


 2013.11.26    昭和の田舎的な恐怖 【眩談】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者が描く恐怖の世界。即物的な恐怖というよりも、じんわりとした和風の恐怖だ。特に記憶関連の恐怖というのは夢にでてきそうな恐怖だ。妖怪や幽霊などの怖さもあるが、本作を読み、その映像を頭の中に想像することによる恐怖が強い。

作品全体をおおう昭和初期の怖さ。水洗ではないトイレなんてのは、その描写だけでなんだか恐ろしくなる。ちょうど、田舎のおばあちゃんの家に行き、古い水回りを気持ち悪いと思うと共に、変な怖さを覚えるような感じだ。洋風の怖さよりも和風の怖さは間違いなく恐ろしい。体験談ではないが、自分の経験上、古い家は恐ろしいという印象があるために、本作にもことさら恐ろしいと感じる短編が多いのかもしれない。

■ストーリー

視界が歪み、記憶が混濁し、暗闇が臭いたち、眩暈をよぶ。読み手を眩惑する八つの物語。京極小説の本領を味わえる怪しき短篇集。

■感想
「もくちゃん」は、知能の低いおじさんの「もくちゃーん」と叫ぶ声が恐ろしい。ある子供は、隣に住む知能の低いおじさんに「もくちゃん」と呼ばれ付きまとわれるのだが…。おじさんに付きまとわれた子供が、おじさんに額と額をくっつけられ記憶を流し込まれる。

知能の低いおじさんが本人の迷惑を顧みず、付きまとうのは、付きまとわれる方からしたらたまったものではない。何か明確な害があるわけではないので、あからさまな態度はとれない。おじさんの記憶を流し込まれた結果どうなるのか。結末を読むと、その恐ろしさに身震いしてしまう。

「シリミズさん」は、まさに田舎の古い家の恐ろしさがジワジワと心に入り込んでくる。ちょうど自分のおばあちゃんの家が本作にでてくるような古い家だったので、恐ろしさもひとしおだ。ある田舎の家には昔からシリミズさんという人形があった。

毎日水をあげるのだが、その部屋に行くまでに様々な奇妙な現象が起こる。田舎の古い家には何かしらの恐ろしい場所がある。トイレへ行くまでの長く暗い廊下だとか、汚らしい水回りだとか。それらを連想させる恐ろしい描写が、記憶を刺激し恐ろしくなる。

「杜鵑乃湯」は、田舎の奇妙な温泉地で、ある男が経験した恐怖の出来事が描かれている。ただ、男が恐怖に対して鈍感となり、淡々と恐怖の描写を流しているのが逆に恐ろしい。マッサージされ横になっていると、真下に老人がいる。廊下に並んだ、受刑者が描いた絵の隣に存在する小さな女の顔。そして、その女が突然しゃべりだす。

すでにこの温泉旅館が恐ろしいことに間違いはないのだが、淡々と旅館内部を移動していく男の行動には、恐ろしさ超えた何かがある。やせ我慢しているでもなく、平然と怪奇現象を受け流す。読まされる方は恐ろしいことこの上ない。

想像力を刺激するもの、即物的なもの、すべて含めて恐ろしい。




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