祈りの幕が下りる時 


 2013.12.19    親は子どもの幸せだけを考える 【祈りの幕が下りる時】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

加賀シリーズ。強烈な親子関係が描かれている。ある女性が殺され、別の場所では男が殺されていた。この二人の関係は?。加賀の母親について描かれていることもあり、父親との関係が描かれた「赤い指」とは対になる作品なのだろう。加賀と母親の関係。そして、家庭環境に恵まれなくとも舞台演出家として出世した博美。

事件の鍵は30年前の出来事が関係する。身元不明の男の死体が誰なのか判明するあたりが物語のピークなのだろう。子供の幸せを願う親は、どこまで狂気を身にまとうことができるのか。昨今の出来事を物語の重要な要素とし、さらには、加賀や松宮がスマホを駆使するあたり、時代を感じさせる描写が多々ある。どことなく、「容疑者Xの献身」に似た雰囲気を感じてしまった。

■ストーリー

悲劇なんかじゃない これがわたしの人生 極限まで追いつめられた時、人は何を思うのか。夢見た舞台を実現させた女性演出家。彼女を訪ねた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された。数々の人生が絡み合う謎に、捜査は混迷を極めるが――

■感想
親は子供の幸せのためなら、なんでもできるのか。方や子供の幸せを考え、子供と夫から離れた女。方や子供の幸せを考え、姿を隠しつつも陰ながら見守る男。作者の名作「白夜行」のように、暗躍する場面がある。子供の幸せを考えるあまりの行動だろうが、異常さを感じずにはいられない。

子供の幸せを考え、自分の人生を捨てても良いとすら考える。親子愛を超えた、遺伝子に組み込まれた子供を守る力というものを感じずにはいられない。事件が不可解なのは、すべて常識を超えた親子愛が原因だろう。

加賀の推理力が冴えるのはシリーズ同様だが、本作では自分の母親と関係があり、なおかつ事件関係者が加賀と接点があるというのがポイントだろう。身元不明の死体は、実は30年前の出来事につながるという衝撃。事件の全容は中盤であってもまったく予想がつかない。異常な親子愛により成立しうる事件のため、常人には理解できない範疇だ。

松宮が常識的な推理をし、加賀が常識外の推理をする。加賀の捜査にかける執念が、すべてを生み出しているのだと思わずにはいられない。事件の概要が明らかになった時、自分を捨てた男の行動には、衝撃を受けずにはいられない。

本作のラストでは加賀が本庁に復帰するような描写がある。そして、加賀に恋の予感すら芽生えている。すでにキャラクターが確立され、様々な事件のパターンがでつくした中で、本作のような親子愛を絡めてくるのはすばらしい。

親が子供に対して、自分の人生をなげうってでも幸せを願うのは、まさに「容疑者Xの献身」だ。子供の幸せのためには、他人をゴミのように殺すこともいとわない。極端な思考かもしれないが、それが不自然に感じないほど、異常な環境が物語内にできあがり、物語として楽しむことができる。

ラストの流れを読む限り、加賀シリーズはまだまだ続きそうだ。



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