容疑者Xの献身 東野圭吾


2008.11.2  哀愁と、悲しみだけが残る 【容疑者Xの献身】

                     
■ヒトコト感想
映画版は結構ヒットしているようだ。ガリレオに関してはそれほど面白いと思ったことはない。科学的な根拠を示しながらも、ずいぶんと強引なことをするなぁという印象が強かった。しかし、本作に限ってはやられたという思いが強い。まったく予想しなかったトリック。湯川と石神の心理戦。そして、悲しい結末。頭の中には福山雅治などが縦横無尽に暴れまわる姿ばかりが思い浮かんでしまう。石神の冷静沈着ですべてを計算しつくした行動、それに気づきながらも石神のことを怪しく思う湯川。この二人の直接対決というのはないのだが、ぴりぴりとした空気感というのは存分に感じることができる。石神がどのような行動をとったのか、それは今までの流れからは想像つかないほど衝撃的なトリックだった。

■ストーリー

数学だけが生きがいだった男の純愛ミステリ天才数学者でありながらさえない高校教師に甘んじる石神は愛した女を守るため完全犯罪を目論む。湯川は果たして真実に迫れるか

■感想
今までのガリレオならば、摩訶不思議な事件を科学的に解明し、半ば無理矢理的な解決方法を導いていたようだが、今回は違う。小難しい理論や物理の実験が登場することなく、単純に人の心の思いの重さを巧妙に利用している。はっきり言えばトリックとしては特別複雑ではない。種が分かるとなぁーんだというような感想を持つかもしれない。しかし、そこに至るまでの石神の思いを理解していれば、決してなぁーんだという思いで済まされることではない。一人の男の一途な思い。悲しみと、それを上回る衝撃が待っていることだろう。

湯川と共に本作で活躍したのが草薙である。ただ、草薙はいい感じに狂言回しとなり、物語にメリハリをつけている。すべてを悟ったような湯川と、必死でかき回す草薙。草薙が事件を石神の思う方向に導いていたために、読者は同じように、まんまと石神の策略にはまってしまう。巧みな叙述トリックと言ってよいのかもしれない。しかし、それはトリックが暴かれても、決してがっかりすることはない。湯川が語る石神の性格と心情を思うと、出てくる答えではない。今までのミステリーならば、なんとなくでもトリックを予測したのだが、これはまったく予想外だった。その言葉が出てくる一行前でさえ予測することができなかった。

トリックの衝撃と、そこに至るまでの過程。結局はすべて石神の思い通りとなっている。草薙を含め、すべての警察は石神の思いどおりに動き、最後まで謎を暴くことができなかった。というか、謎に気づくことすらなかった。この石神の完璧なる計画と湯川のそれを見やぶる力。二人のどちらかに甲乙をつけることはできない。哀愁が漂う分、石神のほうが優れているのではないだろうか。「問題を作るより解く方が簡単だ」その言葉の意味をひしひしと感じ取り、それはもしかしたら、作者が読者に言っている言葉なのかもしれないとも思った。

確かに直木賞をとるだけのことはある。すばらしい作品だ。



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